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「…っそれで、僕も色々薬の使用状況とか量とか、警察のかたから聞いたんです」
「…それで?」
私は先を促すように
優しく詞澄の背中を叩く
しかし詞澄は私のその手をぎゅっと掴むと
震える吐息と共に、その言葉を吐きだした
「…違うんです…っ!」
一瞬、要領を得ないその言葉に
私は首をかしげる
しかし、次に続いた言葉に
私は目をみはった
「違うんですっ…時間が。効くのが早すぎるんです!」
詞澄が、伏せていた顔を上げる
そして、叫んだ勢いに乗ったまま
喋り始めた
「僕は警察で、紅茶に入っていた薬の量を教えて貰いました。一口飲んだだけで充分に死に至る量でした。そしてその濃度や紅茶に溶けていた具合からあの薬が効くのに要する時間は最低でも十五秒、誤差もだいたい一~二秒です。でも、父さんは紅茶を口にしてすぐに倒れてお亡くなりになった。紅茶を口にして倒れるまで、だいたい五秒。…早すぎるんです」
「それは…本当に、間違いじゃないんだな?誤差とか…そういうものは?」
私の戸惑ったような声に
詞澄はまた、頭を抱える
「…何度、計算しても、誤差の範囲外です」
「…そうか。とすると、孝秋はどうなるんだ…?」
考える素振りをする私を、詞澄がすがるような目で見つめる
私は目だけで、なんだ?、と問うと
それはふいとそらされた
「…それで僕は、僕の部屋に置いてあるサンプルと、タカ兄の部屋にあったサンプル、そしてタカ兄が使ったサンプルの量を足したんです。…けど、足りないんです。あときっかり一回分の致死量のサンプルが」
「……」
それの意味するものは、もう一人の
孝秋とは別の犯人の存在
「…僕は推測を立てました。足りない分のサンプルの量と、父さんの死亡した時間から、致死量の薬を飲んだと思われる時間を。それはだいたい、父さんが倒れる前、十秒から二十秒の間。…その間体内に入れたものは、父さんの脳梗塞の薬。カプセルだと、カプセルの溶ける時間も考慮すれば、薬がきくのはもっと後だと思われます。従って、薬はあの粉薬の中にすり替えられた又は混入していた、と考えられます」
そこで詞澄は、じっと私を見据える
何か、酷く怯えているような気がした
「父さんを殺したのは、チリ兄なんじゃないですか?」
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