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その手に握られた物が
なんの殺傷力もない、自分も私も傷つけない物だと分かった途端
詞澄は私へ近づこうとする
「来るな!」
その、私の迫力に呑まれたように
詞澄の体が止まる
私は笑うと
「…もう一度、サンプルを確認してご覧」
「な…」
詞澄はざぁあっと青ざめ
まるで棚をひっくり返さんばかりにサンプルを数えだす
「…足、りない…」
「探してるのはこれだろう?」
私はにこやかに
水に溶かされ、瓶の中へと入ったそれをかざす
詞澄は泣きそうな顔で言った
「チリ兄…だめ…!」
「研究以外、まったくずさんなんだから…」
私はこんな場面だというのに
くすくすと愛しそうに笑う
しかし私はすぐに笑みを消し、一枚の紙を差し出す
「詞澄、これは父様の、遺言書の続きです。内容は『もし、次期当主兼社主である次男智梨が死亡した際は、四男詞澄に当主の座と社の全てを譲る』」
「…そんな…!」
私は、瓶の蓋を
親指で回して開ける
ぴん、と飛んだ蓋が、重厚な絨毯の上に落下した
そして私は、少しだけ寂しそうに笑う
「…詞澄…シズ、後を頼んだよ。分からないことは梓兄様にききなさい。あの方は少しだらしないが、情は厚く、優秀な方だ。頼りにするといい。私の秘書も、全部お前に譲ろう」
「私は、父様のお側にいなければ」
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