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街は机に顎を乗せたまま、うりうりと頭を撫でる俺を見つめる
その、拗ねた子供のような顔と上目遣いにうっかりくらっときてしまい、慌てて頭をふった、その時
「ん…あ、あれ、うえ」
いきなりがばりと起き上がり、頭を抱える街に、まさかと思う
「え?ちょ、まさか」
「うわやばい、ちょっと、わ、き、きたかも…!」
俺はがたんと椅子を立った
しかしすることもなく、テーブルを挟んで街と向き合う
「うわ、うわ、駄目だ、ちょ、紙、紙紙紙紙紙!!」
「だから、ねえってば!まってろ、今すぐ売店で…!」
「間に合わねえっつうのおお!」
ばん、と街がテーブルを叩く
「あー、とにかく、筆記用具だけでも…!」
舌打ちしたい気分で鞄へ向かおうとした俺を、街が止めた
「駄目だ、これ、予備程度じゃ描け…描けない…あああああ!ちょ忘れる!ひー!」
「ひー、ておま、キャラが崩れて」
もう目がキレかかっている街は、ぜいはあと息をあらげてそこら中を睨む
「いっそ壁に…指で描けばいいから…ああでも練習用のインクなんて…ああいっそ血で」
「あー!ちょ壁は!血とか洒落んなんないから!」
止めようと捕らえた俺の手を振り払い、街はいきなり上半身の服を脱ぐ
「…じゃあ…じゃあ服に…」
途端、俺は服を取り上げ、くわっと怒鳴る
「てめえ!それ俺があげた服じゃねえか!二万もすんだからな!彼氏のプレゼント大事にしろ!」
「じゃあ何に描けっていうんだよ!糞が!死に腐れ!毛根減少しろー!」
こんなに慌てて切羽詰まった状況でも、その毒舌加減はいつものままだ
もう描けないストレスが限界にまでたまっているのだろう、なんと街は涙目になっていた
「あー…あー…消えちゃう…うわああ…」
フラフラとよろめいた街がテーブルに衝突する
これはもう、諦めるしかないだろう
ぶつかった衝撃で籠からこぼれたチョコレートが、テーブルを転がった
ふと、転がったチョコレートを見て街の動きが止まる
そして次の瞬間には、街はそのチョコレートの包装をバリバリと破いていた
「街…?」
「お湯!お湯よこせ!」
声をかけると凄い剣幕で怒られる
俺は何がなんだかわからず、急かされるままにポットに手を伸ばした
「湯飲みの三分の一でいい!早く!」
「お、おう」
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