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「……ごめん」
──あれは確か、去年の秋─…。
「……ごめん」
体育祭や文化祭というイベントが一段落ついた頃、俺はクラスの女子に呼び出されていた。
夕焼けに染まった放課後の教室は、普段のそれとは違う空気が漂っていた。
「そんな……謝らないで。佐藤くんは悪くないんだから」
──違う。
「告白したのは私なんだからさ。……だから、謝ったりしないで」
──そうじゃないんだよ。
「なんか突然ヘンなこと言ってゴメンね。……あのさ佐藤くん、自分から言っててアレなんだけど、このことは秘密にしてほしいんだ。あと、明日からも、友達として……」
俯きながら喋っているので表情は伺えないが、途切れがちに発せられる震えた声や、ブレザーの裾を堅く握り締めた手を見れば、前髪に隠れた顔がどんな風になっているのかは容易に想像できた。
「うん、もちろん。あと、その……言ってくれて、ありがとうな」
自分で振った相手に優しくするとは、なんて勝手な言い草だろう。
「あはは、ズルいなぁ佐藤くんは。そういう時は突き放して欲しいもんなんだよー」
無理に明るい声を出す姿を見て、今の言葉が余計に彼女を傷つけてしまったことを知る。
「……ごめん」
「……気にしないで。好きな人とか出来たら教えてね。私でよければ相談乗るからさ。……うん、じゃあこの話はおしまい!」
それは、彼女なりのけじめであり、強がりだったのだろう。
夕焼けに照らされた彼女の顔は笑っていて、でも目の端に浮かんだ涙は隠しようもなかった。
──強い人だな。
そう思うと同時に、激しい罪悪感に胸が締め付けられた。
「じゃあまた明日ね。……バイバイ」
一人でいる放課後の教室は、普段のそれとは違う空気が漂っていた。
野球部と思われる謎のかけ声が、いつまでも耳に残っていた。
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