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──今日はどんな風にしよう。
部屋に戻り鏡の前で十秒くらい考えるが、結局いつもと同じ髪型にする。
ブラシで髪をといて、アクセントにヘアピンを付けたら終わり。
そもそも大して髪の毛が長いわけでもなく、友達のように芸術的な結い方の出来る手先も持ち合わせていないので自然とこうなってしまう。
ただ、日頃から気を遣っている甲斐もあり、私は自分の髪を触るのは好きだ。
滑るような指通りと、ちょっと冷たい感触。
髪の毛を直したら、あとは少し眉毛を整えて、先週発売した柑橘系の甘い香りがするリップクリームを薄くつけた。
真っ白なブラウスの袖に水色のラインが入った夏服に着替え、鞄に日焼け止めを放り込む。
──確か今日は体育があったっけな。
そう思い、髪を結ぶためのゴムを手首にはめ、階段を下った。
「お母さぁーん、お弁当箱どこー?」
洗い物をしている母に訊ねる。
「ほらテーブルの上にあるでしょ。あずさ今日は何時くらいに帰るの? お米やっといてほしいんだけど」
「あ、あった。今日? んー分かんない、また遊ぶかもしんないし。何かあったらメールするね」
見つけた弁当箱を鞄につめこみ、玄関へと向かう。
「あんまり遅くに帰ってきちゃダメよー」
廊下の向こうから聞こえる声に生返事を返し、ブラウンのローファーに足を通す。忘れ物はない、はず。
「行ってきまーす」
そう言って私は、玄関のドアを開けた。
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