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今朝は早起きしたのだけど、ゆっくり自転車を漕いできたので、結局いつもと同じくらいの時間に学校に到着した。
予鈴の十分前。
遅刻しそうだと慌てることなく、かといってヒマを持て余すことのないベストな時間。
すでに登校していた友達に軽い挨拶を済ませて席に着くと、小川君が笑顔でやって来た。
「おっすー、紺野。今日も暑いなぁ」
そう言って彼は、私の左後ろにある佐藤君の席に座った。
ワックスで遊ばせた茶色の短髪を少し直し、Yシャツの裾を出して空気を送り込んでいる。
「あ、小川君おはよー」
「まぁた小川て。アキラでいいってのに。何か抵抗あるの?」
暑さにうだった小川君が、ちらりと横目で私を覗き見た。
「んー……何か男子を下の名前で呼ぶのって慣れてないんだ。ごめんね」
私は、困ったような笑顔で謝罪した。
誰の影響かは定かではないが、いつからか私の中で、『男女が名前で呼び合うのは恋人同士の特権』という先入観が生まれていたのだ。
「そっか。まぁいーや。ところで昨日のメールの事なんだけど、紺野はなかなかの青春っぷりだったぜー」
快活そうに笑う小川君は、少しからかいの含まれた無邪気な目をして言った。
「そ、そうなの?」
「てゆーかあれに返信してくれたのがマコトと紺野だけでね、紺野の方が青春っぽかった。あとは全員シカト。俺って人望無いのかねぇ……」
小川君は深いため息を吐きながら、ガクリと首を垂らした。
「や、全然そんなことないって! いきなりあんなメール送られてきたら誰でも戸惑うよ」
私は大げさに両手を前に出し、彼の発言を否定する。
実際、小川君はクラスのムードメーカーのような所があり、よく佐藤君とのコンビで私たちを笑わせてくれる。
「……やっぱ? マコトにも同じこと言われたんだよねぇ」
小川君がと顔を上げてはにかむ。
白い八重歯を覗かせた屈託のない笑顔に、思わず犬っぽいな、と思ったけど失礼なので取り消すことにした。
予鈴が近づき教室がざわめき始める頃、佐藤君も鞄を手にやって来た。
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