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「うーっす。ほれアキラ、どいたどいた」
そう言って佐藤君は、自分の席に悠々と佇んでいる小川君を他の席へ追いやろうとする。
夏服をラフに着崩した小川君とは対称的に、佐藤君の方はシャツを出さず涼しげに着こなしている。
「マコトぉ、来て早々それかよ。朝くらいはこの窓際の席を堪能させてくれてもいいじゃんかよー」
下敷きを団扇の代わりにしながら、小川君が断固抗議を申し出た。
「あのな、風が気持ち良いってのもあるけど、授業中カーテンが顔に当たったりノートが眩しかったりして結構大変なんだぞ」
小川君はなおも食い下ったが、結局は窓際から遠く離れた自分の席に戻されてしまった。
──いいなぁ─…。
この2人を見ていると、男同士の友情って裏も表も無くて素敵だな、と羨ましくなることがある。
私はどうだろうと意識を傾けようとした時、佐藤君が戻ってきた。
前髪を少しうざったそうに片手で分けながら、佐藤君はやっと、といった感じで自分の座席に着く。
「なんだってアキラの奴は朝からあのテンションなんだか……」
そう言いつつも顔がほころんでいるのは、たぶん気のせいではないだろう。
私は思ったことを素直に口にした。
「本当、2人は仲が良いよね。裏表が無い友情って素敵だなぁ」
「えっ」
私は最初、何か気に障ることを言って怒らせてしまったのかと思ったが、違うらしかった。
だって、目の前に居る佐藤君の表情は──。
──その時の表情は──どう表現すればいいのだろう。
喜んでもいなければ、怒ってもいない。
そこに目も鼻も口もあるはずなのに、私には彼の顔が──…
──そう、のっぺらぼうのように見えた。
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