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「紺野はさ、アキラのメールに何て返信したんだ?」
学食で買ったカップ麺が出来上がるのを待ちながら、佐藤君が私に聞いてきた。
あの後すぐ予鈴が鳴ったので早々に話を切り上げた私達だったが、佐藤君の表情の真意が掴めない私には、その後の授業はただのお経にしか聞こえなかった。
そして今、教室の中ではいくつかのグループが机をくっ付けて、昼食をとっている。
「えー……ただ、単に……『星空を眺めたい』ってだけ……」
自分の中の『青春』を改めて口に出そうとすると予想以上に気恥ずかしく、私の目はしばらく泳いだ末に、手元の弁当箱に佇むプチトマトへと注がれた。
「だから言ったろ。マコトより紺野の方が青春っぽいって」
そう言いながら小川君はカップ麺のフタを開ける。湯気とともに、インスタント食品特有の美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
「うん、確かにそうだったわ。ってかアキラ、それ開けるの早くね? まだ二分も経ってねーぞ」
それを聞いた小川君は、やれやれといった顔で話し始めた。
「バッカだなぁマコトは。いいか? こういう系の食いもんはな、最後の一口まで美味しく食べなきゃいけないんだ。だから三分経ってから食べ始めたんじゃあ最初はいいかもしれんが、ラストは麺が伸びちゃってアウト。俺に言わせりゃあ、三分計って食べるのはむしろ邪道だね。カップ麺に対する冒涜とも取れる。タイマーできっかりなんてのは論外! あ、でもカップうどんは例外ね。奴はある程度お湯を吸わせた方が、コシとモチモチ感が引き立つんだよ。タヌキとキツネにも違いはあるが、まぁ今回はこれくらいで見逃してやる。どうだ、わかったか!」
小川君が得意気に話し終えた横で、それまで黙っていた佐藤君が笑いを堪えながら口を開いた。
何を言うのかは私にも予想がついた。
「なぁアキラ」
「ん、何?」
「それ、とっくに三分過ぎてるぜ」
そう言って佐藤君は、自分の向かいにあるふやけたカップ麺を震える指で差した。
「…………!!」
小川君は石になり、私達はお腹を抱えて笑った。
こうして見ると、やはり今朝の佐藤君の顔は、私の見間違いのような気がしてきた。
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