36人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
人から好かれ、信頼を得るには、それに見合う対価が要る。
それは人間性、社交性、学力、運動能力、そして時には容姿すらも問われてしまう。
私が今まで人から好かれ、信頼を得られたのは、これらを努力の末に手に入れてきたからだろう。
だからもし、これらを失うことがあれば──……。
五限の英語の授業はすでに始まっていたが、私の中には、今まで無意識の内に目を背けていた様々な感情が、まるで傷口から溢れ出す血のごとく感じられて、ノートを取るどころではなかった。
――忘れられたはずなのに、忘れようとしたのに、どうして今さら――。
根底を流れるのは、見栄とコンプレックスと自己嫌悪の渦。
それを養分に咲いた花が、何故か皆の目には強く美しく見えてしまう。
──……いや、そう見えるようにしたのは自分だ。
綺麗に見えるように、賞賛されるように、嫌われないように、丁寧に丁寧に形を作ってきた。
だからそれは、見た目は美しくとも、触れてみればただの冷たく血の通わない造花に過ぎない。
太陽の恩恵を体中で受けとめ、在りのままに咲き誇っている花とは似ても似つかないのだ。
本当の自分というものが分からない。
「あずさらしくないよ」
私らしいって何?
みんなの目に私はどう映ってるの?
何を私に期待してるの?
聞かせて。
聞けない。
聞きたい。
聞きたい──…。
最初のコメントを投稿しよう!