佐藤 真(サトウ マコト)③

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    『そりゃあお前、好きな奴でも居るんだろうよ』 電話口から、アキラの暢気な声が聞こえる。 「俺らのどっちかに?」 『たぶん。うっはーモテモテだなぁ、オイ!』 受話器の向こうではしゃぎ続けるアキラとは対照的に、冷静な声で反論する自分が居た。 「……いや、多分そんなんじゃない」 ベッドの横にある椅子に座りながら、数時間前の記憶を呼び起こす。 そう、あの時の紺野は、そんな浮かれた感じじゃなかった気がする。 決意の宿った目、とでも言えば良いのだろうか。 普段の彼女からは想像出来ない迫力ある瞳に見据えられて、俺は思わず目を逸らしながら「分かった」とだけ言って、その場を去ってしまった。 『……まぁ理由は何であれ、本人が行きたいってんなら止められないっしょ』 「それはもちろん分かってる。……ところでアキラ、さっきから何やってんだ?」 電話口の向こうから、時折、布や金属の擦れる音が聞こえていた。 『あぁ、スマンうるさかったか。何しろ山登りなんて久しぶりだから、準備に手間取っちゃってな』 たはは、と笑うアキラの声に少し嫌な予感がした。 「……なぁアキラ君。楽しそうにやっているその登山の準備とやらは、一体、何のためなんだ?」 答えは明白なのだが、それでも自分の声が引きつっているのがよく分かる。 『何って?決まってんじゃん』 携帯を握る手に力が入る。 『我らが青春計画だよ、マコト君!』 六畳の部屋には、ベッドにうつ伏せで倒れこんだ俺と、机の上に置かれた携帯から聞こえる、アキラの『もしもーし、もしもーし』という声だけが響いていた。      
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