佐藤 真(サトウ マコト)①

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    昼の学食は予想以上に混雑しており、仕方なく購買でパンを買って屋上へ足を向ける。 廊下から窺える教室は、どこも午前中に溜まった鬱憤を晴らすかのように騒がしかった。 中庭に目をやれば、何人かの集団がベンチにたむろしてお喋りに興じている。 俺は少しばかり足を止め、同じタイミングで笑い合う彼らを冷めた目で眺めた。 自分自身の言葉で生きるのは、とても疲れることだ。 それが、毎日のように同じメンバーで顔を突き合わせる学校では尚更かもしれない。 中庭から目を外し、再び教室に視線を戻す。 背後からはまた笑い声が聞こえた。 本音だけで生活するには、学校は多くの人間が居すぎる。 それでも何とかやっていけるのは、それぞれが役を割り振られた台本を持っているからだ。 ある人は『明るい男子の中心人物』の台本を。 ある人は『面白いクラスの人気者』の台本を。 ある人は『憎めないイジられ役』の台本を。 『面白い奴』の台本を与えられた人間は一日の中で何かしら笑いを取らなければならないし、クラスの人間もまた、それを期待し、笑わなければならない。 自分が何をするべきなのかは、台本に記されていて、あとはそれを演じるだけで、一日は平穏に終わるのだ。 みんな、あらかじめ用意された見えない台本に沿って演じつつも、それに気付かないふりをして、本音を隠しながら毎日をやり過ごしている。 だって、自分自身の言葉で生きるのは、とてもとても疲れることなのだから。 その台本を無視する奴は、「空気読めよー」と口では和やかに、でも心の中では『要注意人物』の烙印を押されてしまう。 そして俺が演じている役は…… 『気さくに話せるクラスの中心』って所だろうか。    
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