clair

2/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 その日の夕方は少しだけわざとらしかった。“引退”という区切りを越えても尚、俺とあいつは部活動に励んでいた。図書部という、部員は僅かに(俺達を含め)五人の存在するのかどうかも怪しい部活。  明日は、卒業式。  下級生が準備に追われている中、こっそりと図書室に居座っていた。別に俺とあいつが共謀した訳ではない。俺がまだ読破していない最後の一冊を読んで卒業しよう、そう心に決めて図書室に向かえば、既に先客のあいつが居た。いつもの定位置。窓際の棚にもたれ掛かって三角座り。行儀が悪いと最初は思ったが、あいつは椅子に座っても膝を折り曲げて三角座りで本を読む。あいつ曰くこの体勢でなければ活字は読めないらしい。  空気はすっかり春の雰囲気になっていた。もうじきに桜の蕾は膨らみ、辺りを桃色に染めてしまうのだろう。きっとその時は、俺は高校生で、そうなったら、あいつも高校生なんだ。  全てが予想されているのに。ましてやもう受験なんて終わって、合格してるというのに。言い様のない期待と不安が入り雑じって不快になった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!