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「なー、帰ろ」
不快感を切り裂くように、あいつが沈黙を破った。多分、俺の不快感はあいつには知られていないが。
「……俺はまだ残っとくわ」
「寂しいんか?」
けらけらと、してやったりの表情であいつは笑った。俺はあほか、と一蹴。
確かに俺は寂しいのかも知れない。どうしてか、いつもこうやって憎まれ口を叩くあいつや、図書部の数少ない後輩達、週に一度しか顔を出さないヨボヨボのじいさん顧問も、みんなみんな、明日から過去の日常へと変わりゆくのが恐ろしく寂しいような感情が芽生えていた。
「そういうことにしとくわ」
鼻で笑うような、でも何処か寂しげな声色であいつは言った。ぱたん、とあいつが新書を閉じる音がやけに図書室に響いた。
「もう受験、終わったっけ」
「うちは私立やからな……さっさと終わらしといたったわ。あんたは――」
「俺も終わった。理数科やから」
ああ、そっか。確かにうちらは普通科行くような柄と違うわな。
なんて、なんて意味を込めたのは分からないが自嘲気味にあいつが言った。
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