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手術室につくと同時に、使用中のランプが消えた。ドアの向こうからは、元気な赤ん坊の泣き声が聞こえて来ていた。
「元気な、女の子ですよ」
ドアを通され、入った先には、元気に泣き叫ぶ真っ赤な赤ん坊の姿と、それを抱く忍がいた。
「し、忍!」
声を聞き、目でこちらを見て、優しく微笑む。俺の頬を涙が伝った。
「生きてたんだな、これからも一緒なんだな!よかった、よかった……!」
「ち、ちょっと、この子も見てあげてよ。やっと出て来たのに、可哀相じゃないの。かわいいでしょ?」
うっとりと赤ん坊の顔を見る忍。そして、そっと俺に差し延べる。俺は赤ん坊を忍から受け取った。腕にしっかりとした重みが、温かみが伝わってくる。
「ああ、かわいいな、さすが俺達の子供だ」
「そのこのこと、よろしくね」
忍が、とびっきりの笑顔でそういった。
「な……何言ってるんだよ!一緒に育てるんだろ?!」
気付けば忍の頬にも涙が伝っていた。
「顔も見れないかもって思ってた。それも覚悟ですべて捧げた。でも、そのこに会えた。よかった!一弥、ほんとにありがとね、楽しかった……」
「忍?冗談だよな?」
忍が目を閉じる。医者が首を振っている。看護士の何人かは顔を隠している。
「忍?忍?!」
何度も何度も呼び続けた。
だけど忍は二度と起きなかった。
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