世界で一番最後の世界

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荒れ果てた大地。荒廃したビル群。空は灰色におおわれ、日はうっすらとしか入らない。そんな世界をただ一人の男が歩いている。この世界最後の人類だ。 彼は言葉を話せない。というより言語というものへの認識が全くない。長い間眺めて来たが、滅亡以降に育ったのだろうと思われた。 今彼は、荒れ果てた街をただ歩いている。私から見れば、その瞳はどこか物寂しそうだ。まあ、彼にそんな思考があるのかは疑わしいが。 かつて繁栄を極め、世界の最も強者として存在した人類も今はその最下層。祖先、つまり自分達の進化前の姿である猿にさえ劣った。 動物達は、彼もかつて自分達を苦しめた「人類」だとわかるのだろう。決して彼を自分達の土地へと入れることはなかった。やがて彼はこの、かつて『東京』と呼ばれた街へ追い込まれてきた。草一つ生えない、死の土地へ。 私は彼を、彼が幼い子供ときから見てきた。かれこれ20年。彼はなんとか生きて来た。 だが、ここへ追いやられてからは、転がるネズミや虫を食い、ぼろぼろになりながらの生活。 ああ、もうそろそろ終りか おっと、彼が倒れた。 先程からふらふらと焦点の合わない目をしていたが……。 はいつくばって、辺りを見回し、なにもないことを知ると、彼は苦しそうな目をしながら、その目を閉じた。 ああ、人類も終わったか。かつての繁栄など関係ない。一度終わってみれば何と呆気ない。いきなり現れ、私を荒らし、滅ぼし、自らも滅んだ。今私の掌には、僅かに生き残った生物が細々と暮らしている。 だが私もそろそろ終わるだろう。彼等に荒らされた私は、既に限界は越えている。せめてこの残ったもの達の最期を見届けたかったが……。 ああ、私が消える……
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