ヤミ

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「昨夜未明、○○県の23歳の無職の男性、高柳智弘さんが、何者かに殺されているのが発見されました。警察では……」 私は自分の目を疑った。食べていた朝食のパンを加えたまま、テレビへ駆け寄る。 「……やった、あの男だ、あの男が死んだんだ」 男は一年ほど前から、ある私の弱みを使って、さまざまな嫌がらせを私にしてきた、忌々しいあの男だった。そうか、死んだか。私はなんだか安心したようなうれしいようなそんな気持ちでテーブルに戻り、コップになみなみとついだ牛乳を一口飲んだ。改めてニュースを見る。あいつはどうやら、道を歩いているところを刺されたそうだ。目撃証言もないらしく、犯人はわからないそうだが、そんなことはどうでもいい。あいつが死んだ理由は、天罰だ。  そこまで考えて、ふと、頭にひとつの事実を思い出す。そして、急に顔から血が引いていくのを感じた。 「あ、そうだ。写真、あの写真はどうなるの?!」 気づけば無意識のうちに、大声で叫び、テーブルを思いっきりたたいていた。そう、悪夢の元凶だったあの写真は。 「きっと警察が見つけてくれる……よね」 どうせあいつが自宅で保管しているだろう。無理やり自分に言い聞かせる。が、背中には嫌な汗がじっとりと浮かび、薄手のシャツがべったりと張り付いた。 「7:55分、7:55分」 暫し立ちつくし、自問自答を繰り返していた私に、テレビが現実を教えてくれた。 「あ、やばい、電車乗り過ごしちゃう!」 どうやら10分ほども考え込んでいたようだ。私は大慌てで制服に着替え、すでに用意してあったかばんを引っつかむと、テレビを消すのも忘れて家を飛び出した。階段を駆け下り、エントランスに飛び出し、ふと視界の端に自分の郵便受けに封筒が入っているのを見つける。 「あー、もう、何でこんな時に限って!!」 乱暴に、郵便受けから封筒を取り出し、かばんの隙間にねじ込むと、駅に向かって全速力で走り出した。
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