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「おばちゃんこんにちわ!」
「あらあら美咲ちゃん、いってらっしゃい」
管理人のおばさんへの挨拶は欠かさない私は一人暮らしに慣れてきたのだな、なんてどうでもいいことを考えながら、道を走る。駅まで徒歩5分。そんな売りのマンションだが、今は2分しか時間が無い。スカートが風でひらひらと邪魔だし、教科書のぎっしり詰まった鞄は振り回しながら走るには邪魔過ぎるが、陸上部の意地だ、遅れられない。黄色信号が赤に変わる寸前を駆け抜け、目の前の駅に駆け込み、改札を全力で抜け、ホームに入る。しまりかけた満員のゴールへ、私は飛び込むように入った。
「あー……セーフ、間に合った」
方で大きく息をしながらも、かがむこともできない電車の中、閉まったばかりのドアに体を任せる。
「朝から何をやってるのよあんたは」
ちょうど目の前にいた友人にあきれたような顔で笑われてしまった。
「うっさいわよ、楓。私は、今、猛烈に……疲れてるの!」
相変わらずとどまることを知らない動悸を抑えながら応対するが、楓の顔を見る余裕は無かった。
「ほらほら、髪、ちょっとはねてるよ?みっともない」
「うるさいな、ああ、やっと収まった」
全身の筋肉がびりびりと痺れている。今日はこのままドアにもたれていよう。
「ったく」
あきれた楓は参考書に目を落とした。窓の外を眺める。なんだか少しいつもより明るい気がした。
「あ、そうだ」
鞄に先ほど詰め込んだ封筒を取り出す。入れたとき妙に硬く、重みがあったのでなにか気になっていた。封筒には私の名前以外は何も書かれていない。わざわざ入れに来たのだろうか。
「この大きさ、写真かな?」
封筒をあけ、隙間から中を覗く。
「嘘!?」
なんと、そこにはあの写真が入っていた。危うく投げそうになった封筒をしっかり持ち直し、その口をしっかり閉じ、鞄の底敷きの裏にしまいこむ。
「なに?大きい声出したりして」
「なんでもない!なんでもないの」
また胸が暴れだした。
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