2人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
忍の部屋を後にして、病院の中を歩く。先程まで無情で冷たかった白も、いまは明るく輝いていた。少し早足で廊下を歩き、エントランスから外へ出る。冷たい空気が体をおおい、雪がその体温を奪うように顔におちる。
クリスマスに忍が、暇だったからと編んでくれた、少し不格好な見た目のマフラーを首に巻きなおす。ささやかな温かさを感じながら駐輪場へ急ぎ、自転車に跨がった。会社へと向かう道に入ってすぐ、忍が窓から手を振っているのが見えたので、大きく振り返した。見えなくなるまで振っていて、曲がりそこねてこけたのは忍には内緒だ。
実は時間がおしているので、急いで自転車を漕ぐ。携帯の電源を入れるとすぐに着信が入った。
『至急戻れ』
同僚から10分前に入ったメール。
「……病院なんだから見る訳無いだろうが!」
一人で叫びながらさらにスピードをあげた。
会社につくと、メールの主は優雅にコーヒーをすすっていた。
「何なんだよ、至急って」
「この前貸した金さ、返してくれない?今昼飯代がない」
「千円位誰かに借りろ!」
とりあえずそいつを蹴飛ばし、千円は返さずに仕事についた。
最初のコメントを投稿しよう!