薺華(せいか)

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パソコンにプログラムを打ち込みながら、忍のことを考える。今何してるだろう。今まさに産みそうになっていたら。容態が悪化していたら。やはり悪いことばかり考えてしまう。 「手が止まってるぞ。それにあちこち間違えてる。プログラムに女の名前をうめこむな」 大学時代からの先輩、佳奈さんに頭を殴られてしまった。画面を見るとあちこちにSHINOBUとかいてあった。これでは漫画の中の馬鹿な男じゃないか。俺はいったん手を休めた。 「すいません、さっき医者と話して来て、考え事してました。」 「そっか……」 医者、と聞き、先輩の表情が暗くなる。先輩は、俺より忍とのほうが親しい。忍いわく、親友兼姉らしい。だから、先輩も忍のことは大切に思っている。 「よし、あたしが仕事終わったら話聞いちゃる!だから、今は集中しろ!」 何故か再び頭を殴り、先輩は去っていった。また励まされた。何で俺はこんなに弱いのだろう。 「……仕事だ!」 俺は隣のやつに何事かと凝視されながらも、大声で自分にいい聞かした。やっぱり先輩に話を聞いてもらおう。  仕事がおわると、先輩は近くの喫茶店に俺を招いた。仕事はおかげさまで、その後は普段通りにこなせた。 「あんた煙草吸わないよね、確か」 「あ、はい」 禁煙席に着くと先輩は水を一気に飲んだ。 「あー、生き返った!喉渇いてたんだよね。ホントはビールがほしいけど、話聞けなくなるからね」 楽しそうに笑いながら話す。つられて笑うと、気持ちが少し楽になった。席に着くとすぐに、先輩はウェイターをよんだ。 「あたしこれね、あんたは?」 「え、早?!えーっと……」 「じゃあ同じので」 「え?!」 「ではこちらをおふたつでよろしいですか……?」 「いいよいいよ」 「かしこまりました」 あっという間にメニューが決められた。 「せ……先輩?」 「大丈夫!美味しいから!」「はあ……店員もなんで聞き入れるかな?」 「気にしない気にしない」 その後、少しのあいだくだらない世間話をした。タレントのスキャンダル。友人の社内スキャンダル。課長のかつら疑惑。ほかにもいろいろ。暫く話して話がつきてから、先輩は切り出した。 「で、どんな話だったの?」
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