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「……やっぱり俺はダメですね」
つぶやくと、潤んだ目で先輩が睨んでくる。しかし、怯む事なく続ける。
「そういうこと、全然気付けなくて、心配してないように振る舞うので精一杯だった。忍がどんな風に考えてるかも、今日初めて考えた。やっぱり駄目ですね。」
それを聞いて、目を赤くしていた先輩が、若干呆れ顔で笑った。
「ばかだね、あんたが全身全霊を込めて心配してたら、それこそ心配で夜も寝られないよ、あの子。あんたのその鈍さが、あの子に一番あうの」
「鈍さって……。まあ、そうかもしれないですね。そうですね。……がんばります!ん?頑張ってもダメなのか?」
「ま、頑張りなよ!そこから生まれる空回りが、あんたの面白いところなんだよ、きっと!」
「酷?!」
「あはははは!」
ようやく、先輩も笑った。俺も少し、楽になれた。やっぱり先輩は先輩なんだなと思い知った。これからは今まで以上に頭が上がりそうにない。
「さあ、食べるよ!冷めちゃってもおいしい……はず!」
「はずって何ですか!」
「あ、おいしいおいしい」
「え?あ、ほんとだ」
俺達はその後、またくだらない話をしながら食べた。
会計を終えて外に出ると、外は一段と冷え込んでいた。時計の針が10時すぎを指している。
「さてと、あたしはさっさと帰りますわ!寒いのは嫌いでね」
「俺だってごめんですよ!先輩車でしょ?おれ自転車ですよ?」
今は駐車場を歩いている。
「頑張れ、無免許!」
「くそ、頑張りますよ!」
車に着くと、先輩が車に乗り込み、エンジンをかける。窓が開いて、先輩が顔を出す。
「じゃ、気をつけなよ」
「先輩も」
先輩はニッコリと笑って、去っていった。マフラーを巻く。
「あー、暖房なんかより暖かいぞ!」
自己催眠は重要だ。かなり気分が変わる。会社に戻り、自転車の止めてあるところまで走り、そして乗る。明日から、何が変えられるかはわからない。けど、なにかを変えるため、頑張ろうと思えた。先輩のおかげだ。俺は勢いよく自転車を漕ぎ出し、いつもよりかなり短い時間で家についた。
さあ眠ろう。明日もハードだ!
目をつむったときだった。
枕もとの携帯が鳴り響く。
「この音……、病院から?」
「柊一弥様ですね?奥様が、お子さんが産まれます!至急こちらに」
ああ、神様はいないのか。
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