薺華(せいか)

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もうすぐ朝になる。手術室の前で、一睡もせず、ただ待っていた。今までのことを思い出しながら。大学で佳奈先輩を通して忍に知り合い、やがて付き合うようになり、喧嘩して、仲直りしてを繰り返して、卒業して結婚して、子供がいるって知って。こう考えたら、長いようでとても短い付き合いだ。まだまだいろいろやりたいことがある。生きてくれ、忍……!  ふと、時間が気になり辺りを見回す。時計が見当たらない。仕方がないので、いったん携帯が使えるところまでいくことにした。不気味なくらいに静かな廊下に足音だけが寂しく響いている。 「そうだ、今日休むって連絡入れないと……。ただ会社には誰もいないしな……、あ、先輩に言っとこう」 電源を付け先輩に電話をかける。十数秒呼び出すと、ようやく出て来た。かなり不機嫌な声が飛んでくる。 「朝っぱらから何?まだ起きるつもりなかったのに……。6時前よ?」 「すいません、今日会社、休みます。一応自分でも入れるつもりですが、もし入らなかった時のために」 「……何で?」 「いま、忍は手術室にいます」 しばしの沈黙が続く。先輩はどんな顔をしているんだろう。多分、泣きそうな顔だ。先輩のため息で、沈黙は破られる。 「そっか、わかったよ。でもね、いきなり休むなんて無理かも。……後で怒られるかもよ」 「構いません」 「……わかった。しっかり見守ってやりな……後悔しないようにね」 「ありがとうございます」 電話を切る。果たして正しいのだろうか。一瞬迷う。おそらく目を醒まして俺がいたら、忍は怒ったふりをする。休んだな?って。何か投げられる。ただ、もし最後なら?……俺は手術室に急いだ。
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