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【自由感情】
どうしてこんな世の中になったんかな…。
僕は小さな塚の前で、両手を合わせながら思った。この塚に刻まれた名前を、一人一人心で読み上げながら。
前世紀から言われたストレス社会が、この国の民衆から笑いを奪っていった。苦しみ、恨み、呪う。そんな負の感情の渦巻きが、政府を脅かす程になった頃。政府は他国から『笑い』の感情を輸入し、民衆に配給すると発表した。
『笑い』の配給を受けるには、自らの負の感情の量と質と引き換えだ。激しい負の感情を持つ者ほど、沢山の『笑い』を受ける。静かに世の中をあるがまま受け入れた者は、未だ『笑い』を知らぬ者がいるというのに。
こうして民衆に目に見えぬ不平等が広がっていった。
『笑い』を輸入する代わりに国は、負の感情を輸出した。それは感情兵器の材料となる。体を傷つける事なく、苦しみの感情に心を壊されるのだ。彼らは意識が働く最後に、僕らの国を呪っていった。そして、何時しかその明確な指向性を持つ負の感情が、この国をバリアーのように黒く覆った。
故に心静かに生きていた者達が、抵抗する術もなく永遠の眠りについた。
僕らは『笑い』の配給を受けたが故に、もう引き換えの負の感情を持たない。
そうだ。いずれ僕らも黒い肥大したマグマに遠からず同化する。この国の民衆が全て、黒いマグマという一つの共同体になった時、やっと民衆に平等が与えられるのだ。
笑っている
民衆が
自由感情
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