6188人が本棚に入れています
本棚に追加
「昴、明日はあなたの誕生日だから、早めに帰って来なさいね」
いつものように走りながら、昴は朝の院長先生の言葉を思い出した(後ろで篤志が「待てっ、コンニャロ!」とわめいているが、無視した)。
誕生日、と言うよりも『昴が院長先生に拾われた日』と言う方がしっくり来る。
実は昴には、7~8歳までの記憶がこれっぽっちも無い。
孤児院での生活も、最初の方の記憶は殆ど無い。
だが、クロは……。
クロは、昴が産まれた時から一緒に居る気がする。
もしそうだったら、かなりの老猫の筈だが、クロはまだまだ毛並もつやつやだ。
(なんかよく解らないけど、僕に記憶が無いって事だけははっきりしてるんだよなー……)
ふと、現実に戻されて視界を広めて見ると、そこは学校だった。
「え…。あれ?」
(僕、今孤児院を出たばっかなんだけど…?)
時計を見ると、まだ9:38だ(この学校のHRは、9:45から始まる)。
孤児院を出て、まだ2分しか経っていない。
孤児院から学校までは、昴の足でも、少なくとも10分は掛かるはず。
いつもならぜえぜえと息苦しい筈なのに、全然しんどくも無い。
変だ。
何かが変だ。
最初のコメントを投稿しよう!