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『置いてきぼりね』
『とても遅いもの』
『まぁ無様なこと』
囁くような声たちが何処からともなく聞こえてきた。
「置いてきぼりじゃないわ!ダイナは私と一緒に行くんだから!!」
姿見えぬ声たちに、アリスは大きな声で言い返した。
『何を言ってるのかしら』
『何も考えてないんだわ』
『何にも知らないのにね』
『『『女王はもう、行ってしまったのに』』』
囁く声たちは最後は綺麗に声を合わせると、ピタリと喋るのを止めた。
女王?
そんな人は誰も…
庭園を眺めるアリスは、その時やっと気が付いた。
「大変ダイナ!!あの人がいないわ!」
アリスは急いで、女性が向かったと思われる丘へと走って行った。
その後姿を、風に揺れる花たちだけが見送った。
丘へと駆け上がったアリスが目にしたのは、優雅に紅茶を楽しむ女性と、その向こうに広がる広大な景色だった。
「ワタクシを待たせるなんて、いい度胸ですわね」
言葉とは裏腹に、女性は自らの座る白い丸テーブルに座るように示した。
「紅茶はいかが?」
「あ…いただきます」
全速力で走ってきて喉がカラカラだったアリスは、女性の申し出を喜んで受けた。
汚れ一つ無いテーブルの上には、紅茶のカップ二つとポット、それと不思議なチェス盤が一つ。
「ワタクシのチェス盤が気になって?」
呆然と盤を見つめるアリスに、女性は至極嬉しそうに笑い掛けた。
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