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そのチェス盤はいたって普通である。
駒たちが縦横無尽に盤上を動き回っていること意外は。
「…この駒…チェスをしてるんですか?」
そう、よくよく盤を見てみれば、駒はそれぞれの移動範囲にしか動いていないし、相手方に取られた駒は盤上から消えていく。
「この盤上で行われているのが、ワタクシの“チェス”」
アリスは盤から目を離し、しっかりと女性を見つめた。
「先ほども言った様に、これからアナタは“駒”になってワタクシ――黒の女王――を楽しませる。
そして、ワタクシのチェスをクリア出来れば、アナタの願いを一つ叶えて差し上げる。
これが“チェス”の一番絶対的なルール。」
黒の女王はアリスに紅茶を渡し、丘から見える、何処までも続く平らな土地を見つめながら続けた。
「次に重要なのは、アナタたちがなる駒。そうね…アナタたちは白のポーンになるといいわ。
ポーンのクリア条件は、“8の目に辿り着くこと”」
「あの…ちょっといいですか?」
「何かしら?」
黒の女王は話を途中で遮られ、やや機嫌を悪くしながらも、再びアリスへと向き直った。
「ここでチェスをするんじゃないんですか?」
「あ?“アナタは駒になる”と。
ここにあるワタクシのチェス盤は、今現在行われていることを示しているだけ。
本当の盤は―――あちら」
女王が示したのは、何処までも続く平地。
…と、さっきまでは思っていたが、
そこはとても細い小川が何本も端から端まで真っ直ぐに流れており、
間に挟まれた土地は、川から川まで達する低い緑色の垣根で正方形に区切られていた。
まさしくそれは――…
「…チェス盤…」
なるほど、これなら私が駒になるっていうのも無理がないわ。
でも…
「でも、あそこには誰も居ません。その……陛下の盤では今も動き回っているのに」
女王の盤が正しいのなら、白のナイトが黒のポーンを取ったのが、平地でも見えるはずなのだ。
「見えるものだけがすべてじゃないわ。それに…此処は鏡の国ですもの」
黒の女王は小首を傾げ、意味深な微笑を浮かた。
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