1人が本棚に入れています
本棚に追加
「…すごい…」
小川を飛び越えた瞬間、平地は森へと姿を変えた。
アリスはしばらく呆然としていたが、自分がポーンだということを思い出すと、急いで森を走り出した。
そうしてしばらく走っていると、突然森は開け、見事な駅が姿を現した。
ゴシック調のその駅は、森に溶け込むようにひっそりと佇んでいた。
そしてたった今、真っ黒なボディを輝かしながら汽車が駅へと滑り込んだところだ。
「あの汽車に乗れば、三の目まで行けるんだよね?」
ダイナに、というより自分に確認を求めて、アリスは駅へと走り出した。
「乗車券を拝見いたします」
汽車に乗り込もうとするアリスを車掌がそう言って止めた。
「あの…持ってないんですけど…どこにも売り場がありませんし…」
「それじゃ乗れないな」
恐る恐る言うアリスに、車掌はきっぱりと言い放った。
ボォォォーーーー
その時ちょうど、汽車が勢いよく蒸気を吹き出した。
「しゅっぱーーーつ!!!」
「「「しゅっぱーーーつ!!!」」」
車掌の叫び声に呼応するように、どこからか大きな合唱が聞こえた。
「えっ…ちょっと待って!!」
呼び止めるアリスの声を気にも留めず、車掌は走り出す汽車に乗り込んで行った。
「もう…どうしたらいいの…?」
走り去った汽車を眺めながら、アリスは途方に暮れていた。
「元気出してよアリス 次の汽車があるはずだよ」
「そうね、そうだよね」
ダイナの言葉にアリスは気を持ち直し、時刻表は無いかと辺りを見回した。
すると、古びたベンチに一人、白い紙の服を着た男の人が座っていた。
「あの、次の汽車が何時来るかご存知ですか?」
アリスは様子を窺いながら、男へと訊ねた。
「それはもちろん昨日さ」
男は顔の高さまで持ち上げて読んでいる紙から顔を離さず、平然と答えた。
「私が知りたいのは、“今日”のことなんですけど」
「汽車は昨日来て、明日出発するのさ。だからこうして一昨日から待ってるのさ」
この人じゃ話にならない、とアリスは思うと大きくため息を吐いた。
「…歩いて行こうか、ダイナ…」
最初のコメントを投稿しよう!