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「もううんざりよ!!あんたのせいで私の人生台無しだわ!!!」
ヒステリックな女の声が、静かな家を駆け巡る。
ガシャン!!
「それはお互い様だろう!?お前だってそう言える立場じゃないはずだ!!!」
今度は大声で叫ぶ男の声が、夜の静寂を震わせる。
静かな筈の夏の夜は、この家だけには訪れることは無かった。
騒ぎ立てるリビングと夜闇一つを隔てた二階の部屋。
その暗い部屋のベッドで、一人の少女がその身を小さく硬く縮こませていた。
「ねぇダイナ。怖い夢を見た時には、一番幸せなことを思い浮かべるといいんだよ」
頭まで被ったタオルケットの中は、唯一少女の世界だった。
少女の腕の中には、小さな黒猫が一匹。
でもそこは、安らぎまでは与えてくれなかった。
少女の耳には、痛いほどリビングからの恐怖が届いていたのだから。
ガシャン!!
バタンッ!!
「あんたなんか死ねばいいのよ!!!」
リビングが酷く荒れる音と共に聞こえるのは、母親のヒステリー。
その声に少女は身をビクつかせ、より小さく体を丸めた。
それでも体は小刻みに震え、涙が零れる。
恐怖に震える少女の涙を傍らの子猫が優しく拭った。
「…ダイナッ…」
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