不幸な現実

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眠れない夜は明け、夏の照りつけるような日差しがカーテンの隙間から差し込んだ。 少女はタオルケットから這い出して、音を立てないようにそっとカーペットへと足を下ろすと、ゆっくりと部屋の扉へと歩み寄って、耳を澄ました。 「パパとママ、出掛けたみたい」 ほっと肩を撫で下ろす少女の足元に、黒い子猫のダイナが擦り寄った。 少女は満面の笑みでダイナを抱き上げると、 「お腹すいたよね。今ご飯あげるよ」 そう言って、階下へと降りて行った。 リビングは昨日の音が物語る様に、案の定“いつものように”、泥棒が入ったかの様な荒れようだった。 テーブル、椅子が倒れているのは勿論、ガラス棚や食器まで粉々に割れている。 その光景をなるべく視界に入れないようにして、カウンターキッチンへと踏み入れ、 隅に置かれていた猫用のお皿に水とキャットフードを入れて、ダイナへと差し出した。 「みゃー」 ダイナは一声嬉しそうに鳴くと、キャットフードへと噛り付いた。 少女もキッチンに置かれた買い置きの食パンを一枚取り出すと、ダイナの横に座って口へと運んだ。 両親がそれぞれ働きに出るこの時間だけが、少女の平穏な時間だった。 少女の名前はアリス。 両親の不仲以外は至って普通の10歳だ。 アリスは何故両親の仲が悪いのか知らない。 …もしかしたら、知りたくもなかったのかもしれない。 毎晩繰り返される悪夢。 その中で、心身ともに疲れ果てながらも、アリスは懸命に毎日を送っていた。 そう、あの日までは―――……
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