もうひとつのバイト

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 良樹はカウンターに手を乗せていた。 目の前の客がその手にそっと自身の手を乗せる。  この客は前に一度だけ来たが、良樹は名前を覚えていなかった。 客「良樹くんは、今日何時ごろあがるの?」 良「昼間もバイトしてたし、1時にはあがりかな?」 客「待っててもいい?」 良「……。」 客「あれ、彼氏今いるの?」  良樹は彼氏がいない時人肌恋しくて、たまにしか来ない後腐れのない客相手にウリをしていた。  今日はポカリの人に会い、いい気分だったので少し悩む。 良「………いいよ。」  OKしてしまった。  良樹の複雑な事情を知るさくらは横で聞いても、良樹を止めたい気持ちはあるのに口に出せないでいる。  岸本も良樹やさくらの様子に、常連ならではの空気の読みかたで傍観しているにとどまった。
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