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「いや…いや!!」
滂沱{ぼうだ}と溢れる涙が、銀髪の姫君の白い頬を濡らす。
見開かれた青い双眸には、恐怖が乱舞している。
「お願い……やめて……」
乾燥してひび割れた唇から落ちる懇願は、蝋燭の炎すらも揺らさない。
窓の外には、姫君を嘲笑うかのような細い三日月が輝き、その鋭い光が、一層不吉に、姫君を見下ろす刃を照らす。
「いやですっ!! やめて下さいましな!!」
絶叫のせいで、乾燥した唇に血が滲む。
刃物を握る指が、その血を拭い、刃に塗り付ける。
「………叫べ」
男は言った。
「喚け!! 我を憎み、我に力を与えよ!!」
「いやああぁぁぁぁぁあ!!」
寝台に縛り付けられた姫君は、泣き叫ぶことしか出来ない。
男は姫君の叫び声に酔いしれながら、刃物を蝋燭の炎であぶる。
そして、それを姫君の右の掌に押し付け、素早く切っ先を滑らせた。
「ああああああぁあァァああああぁああぁぁアアア!!」
耳を覆いたくなるような姫君の絶叫の陰で、ぶちぶちと肉の寸断される音が響く。
男は姫君の手首を乱暴に掴み、どくどくと流れる赤い血を、銀色の杯に注いだ。
「あぁ、あぁ……っ、あああぁ」
痛みと恐怖に喘ぐ姫君の傷口に口づけ、男は立ち上がる。
そして祭壇に近づき、定められた配置の蝋燭一つ一つに、姫君の血を垂らす。
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