1.悪夢の一夜

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 姫君は反転して俯せになり、嘔吐した。  あの煙さえ吐き出さんと、肩を上下させながら。  ――――だが、胃の中が空{から}になっても、煙だけは“そこ”に居た。  胃ではなく、下腹部に居た。  何年も前から、そこに居ることが義務付けられていたかのように、居座っている。  「出ていって、化け物!!」  長い銀髪を振り乱し、姫君は叫んだ。  「わたくしを返して!!」  ――――ドンッ!  突然響いた、雷鳴にも似た音に、姫君は耳を塞いだ。  ドサッ。  何かが床に倒れる。  姫君は辺りを見渡し、ぎくりと息を呑む。  月明かりに朧に照らされた床には、黒焦げた死体が転がっている。明らかにそれは、先程の神官のものだ。  「な、に……」  「――――成功ぞ」  男が呟く。  「成功したぞ!」  男は大股で姫君――――シュミナに近づいた。  「シュミナ、我が妃よ。我の世継ぎを産めぃ」  「………!」  直感した。先程の煙が、どう“為る”のかを。  「そ、そ…そんな……っ」  男は―――ルナルガンは満足そうに笑った。  「いずれ隠せなくなろう。そうしたら国民にさえ発表しようではないか」  ルナルガンは歌うように言った。  「我が妃が子を為した、とな」    窓の外には三日月があり、絶望に凍り付くシュミナの銀髪を、美しく輝かせていた。
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