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「あの…」
何を言ったいいかわからず、とりあえず声をかけてみた。
だけど、その少女は、まるで聞こえていないように、空を見上げていた。
そのほんの少しの沈黙に、心が折れかけたとき、
「何?」
少女はこっちを向いてそう言った。
どうやら、あのときの美しくさは、月光が作り出した幻ではなかったみたいだ。
俺が、少女の美しさに見とれていると、少女はまた空を見上げてしまっていた。
「あの、俺は高橋昇っていうんだ。ここの近くの高校に通ってる。それで…」
自己紹介をしてみたものの、すぐに言葉に詰まってしまった。
「私は、白石紗香。17歳だから、通ってれば、私も高校生ね」
通ってればって言葉が気になったけど、一先ず話を続けることにした。
「ここで何してるの?」
「月を見てるの」
まだ、明るいのに、そう思いながら、空を見上げると、そこには、白い月が浮かんでいた。
「知ってる?月って色んな姿を見せてくれるのよ。でも、私が一番好きなのは、やっぱり夜空に浮かぶ月だけどね」
そう言った、紗香の笑顔は本当に綺麗だった。
「一緒にここで月を見ててもいい?」
俺が言うと、
「いいわよ」
紗香は、空を見上げながら言った…。
「じゃ、そろそろ帰るね」
いつの間にか、辺りは暗くなり始めていた。
時間を忘れて、月を見ていたことなんて生まれて始めてだったかもしれない。
「それじゃ」
そう言って帰ろうとする紗香に俺は、
「またここに来て一緒に月を見てもいい?」
と言った。
連絡先を聞くわけでも、ひき止めるわけでもなかったけど、それが、一番いい言葉のように思えた。
「いいわよ」
紗香はみとれるほど美しい笑顔を残して、帰って行った。
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