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翌日、通夜が始まる前に"彼女達の体"を遺族の待つ家へと運ばれた後、遺族からの
『エンバーマーを呼んで下さい...。』
との声で、春海が呼ばれたので、それに便乗し俺も同行する事にした。
向かう途中に春海は
『たまにね、そうやって呼ばれる事もあるんだよ、心配すんな』
と、察していたが俺が心配だけじゃなく"行く末"を見守りたいと思ってる事も読んでいた様に少し笑ってた。
家に着いた時、遺族...旦那は2人を前に泣いていた。
『...すみません。お見苦しい所を...私は、仕事やら付き合いやらでよく家を空けてばかりで..いつしか家族というものすら煩わしいと思っていた....』
彼は、ゆっくり立ち上がり
『こんなに暖かに微笑む妻を...息子を忘れていた...こんなに幸せな顔を...不安にさせてばかりの俺を待っていてくれたのは妻達だけだった事も...
愛情を注ぎ続けてくれていた事も
私は、大切な事を忘れていたよ......。』
と、春海に伝えた。
戻らない家族に告げたかった言葉を
春海に話したかっただけなんだ...。
懺悔を含め感謝しているという事を...。
『私は、少しだけ時間を戻せる時間の魔術師ですから、せめて幸福な時間だけでも取り戻して差し上げるのが私の仕事です。』
春海がそう答えると、
『あぁ...最高の時間を有難う。何でもない日々が今では酷く懐かしいよ...今になってやっと気付くなんてな...。』
と、彼は目を閉じたまま告げた。俺達は通夜には参列しなかった。
けど、参列した人達は、きっと皆揃って想うだろう。
帰らないあの幸福な笑顔。亡骸を。
『安らかな寝顔を...』
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