EMBALMING...14

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《忘れないで...どうか忘れないで...》 リリリリ...... 欒『はい。』 明日菜『私よ。仕事を頼めるかしら』 欒『解りました。すぐ出ます。』 明日菜『宜しくね。』 午後9時。 仕事場に着くとすぐに仕事に移った。 明日菜『これがカルテと御遺族から預かった衣服と後、生前の写真よ。』 カルテと衣服等を欒に託すと 明日菜『手伝いは?』 と問うので 欒『大丈夫です。』と答えた。 『名前...片瀬 莉砂...ピアノ教室の帰りに事故.....指三本と肋骨と左足の骨折...肋骨の骨が内臓に刺さった為、失血死....双子だったのか...。今、治してやるから...』 エンバーミングは数時間に及んだ。 ピアノの奏者にとって指は大切だから念入りに.... それで遺族の悲しみが少しでも和らぐなら... そして... 彼女が一番それを望むだろう... ピアノ...もっと弾きたかったろうな 春海『死体じゃない。人間だ。』 フと春海の言葉を思い出した。 そう...遺体の声を尊重し生前の姿を取り戻してやる、こんなに誇りを持てる事はない。 遺族に感謝される事はあれども 遺体に感謝される事はまず無い。 それでも声を聞き最後の別れの時間を作る事だけが 唯一の俺達エンバーマーの勤めだ。 遺族にとっても心残りの無いよう サヨナラの時間を最後に良いフィナーレの幕を閉じる為の... 衣装はピアノコンサートで着るはずだった薄紅のフリルのワンピース。 折れた指は修復出来たけど 突き出してしまった骨を戻しても 傷の痕が気になり 明日菜に用意してもらった 白いレースに羽根のついた手袋を付けた。 『さぁ...フィナーレの時間ですよ』 エンバーミングの済んだ莉砂は 妖精のように綺麗で愛らしかった。
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