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《忘れないで...どうか忘れないで...》
リリリリ......
欒『はい。』
明日菜『私よ。仕事を頼めるかしら』
欒『解りました。すぐ出ます。』
明日菜『宜しくね。』
午後9時。
仕事場に着くとすぐに仕事に移った。
明日菜『これがカルテと御遺族から預かった衣服と後、生前の写真よ。』
カルテと衣服等を欒に託すと
明日菜『手伝いは?』
と問うので
欒『大丈夫です。』と答えた。
『名前...片瀬 莉砂...ピアノ教室の帰りに事故.....指三本と肋骨と左足の骨折...肋骨の骨が内臓に刺さった為、失血死....双子だったのか...。今、治してやるから...』
エンバーミングは数時間に及んだ。
ピアノの奏者にとって指は大切だから念入りに....
それで遺族の悲しみが少しでも和らぐなら...
そして...
彼女が一番それを望むだろう...
ピアノ...もっと弾きたかったろうな
春海『死体じゃない。人間だ。』
フと春海の言葉を思い出した。
そう...遺体の声を尊重し生前の姿を取り戻してやる、こんなに誇りを持てる事はない。
遺族に感謝される事はあれども
遺体に感謝される事はまず無い。
それでも声を聞き最後の別れの時間を作る事だけが
唯一の俺達エンバーマーの勤めだ。
遺族にとっても心残りの無いよう
サヨナラの時間を最後に良いフィナーレの幕を閉じる為の...
衣装はピアノコンサートで着るはずだった薄紅のフリルのワンピース。
折れた指は修復出来たけど
突き出してしまった骨を戻しても
傷の痕が気になり
明日菜に用意してもらった
白いレースに羽根のついた手袋を付けた。
『さぁ...フィナーレの時間ですよ』
エンバーミングの済んだ莉砂は
妖精のように綺麗で愛らしかった。
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