EMBALMING...14

7/9
前へ
/53ページ
次へ
扉を開けると 以前交わした莉砂と私がいた。 紀砂『莉砂がいなきゃ...ダメだよ...私一人じゃ何も出来ない』 莉砂『紀砂、もっと自信を持ってよ。私だって一緒だけど、私なら紀砂と一緒なら何だって出来ちゃうって考えるよ。だから...ね?頑張ってみようよ』 『ずっと一緒だよ』 そう言って笑った莉砂がいた。 紀砂『莉砂...ねぇ...一人にしないでよ...お願い...嫌だよ....約束..したじゃない...』 扉の前で泣き崩れ紀砂は一歩も動けないまま一夜を明かした。 翌朝、目が覚めて泣きはらした顔で一階へ降りると 公園で見かけた男がいた。莉砂が連れてきたの? そして、莉砂も帰って来ていた。 正直、怖い。 見たくない。 だって莉砂の死に顔なんて... 莉砂が死んだなんて... 昨日は一緒に学校へも行ったんだよ? なのに今日は... 心臓の音がシールドを伝い全身から鳴っているように響く。 お母さんは 『お帰りなさい、莉砂...私の可愛い駒鳥...』 と棺桶の莉砂に触れていた。 『とっても綺麗よ...紀砂とコンサートの為に選んだ衣装だものね』 と話ていた。 ゛私と選んだ...゛ ゆっくり棺桶に近づくと 馴染みのある自分とそっくりな莉砂が 頬を薄紅に染めて まるで天使か妖精、いや、森で遊び疲れた駒鳥のように柔らかく微笑みながら眠っていた。 軽やかな聖なる奏者の手は真っ白で 凄く綺麗だった。 『紀砂、ほら笑って』 そうやって笑う莉砂の声がした気がした。 紀砂『おかえり...お帰りなさい...莉砂。』
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加