クラインの壺

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 天気の良い昼下がり、賑やかな商店街に場違いな奇声が上がった。  一人のスーツを着た中年男性が突然怯え出し、見るもの全てに驚愕の声を上げていた。まるでジャングルでもさまよっているかのように。周囲の人は見て見ぬふりだ。  一人の女性を除いて……。  彼女は、黒のパンツに黒のジャケット。商店街のベンチに座り、持っている雑誌には目もくれず、狂ったようにさまよう男を見て、不適な笑みを浮かべていた。  彼女の名は、草薙静。生まれつき人に幻覚を見せる能力をもっていた。  今日もまた、電車で痴漢を働いていた男に制裁を加えた。  あの男は警察に捕まり、そのまま病院送りだろう。  彼女は自分の持つ力を正義の為に使っている。それが自分に与えられた使命だと思っているのだ。  唯一の問題は、幻覚を解くことができないことだ。 「さて、これからどうしようかな?」  彼女は呟くと、商店街を駅の方へ歩き出した。
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