クラインの壺

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 路地から一部始終を見ていた黒づくめの初老の男も、タバコを革靴のかかとでもみ消すと、彼女の後をゆっくりと歩き出した。 「うまくやっているじゃないか」  黒服の彼女を尾行し始めて三日目。彼、真鍋司郎は長年に渡る魔術の研究の結果、ついに幻惑の術を身につけたのだ。  試しに、全くの他人の彼女に、『生まれつき幻覚を見せる能力を持っている』という幻惑を見せた。  結果は成功のようだ。  彼女が、目によって認識しているもの、頭脳によって思考しているものは、全て幻惑だ。  実際、商店街では何も起きてはいない。彼女が見て、ほくそ笑んでいたサラリーマンも普通に歩いている。
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