第二章

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 先程まで、岩がごつごつした地下にいたあたし。怪しいドアを越えた先にあったものは。 「ふかふか!」  まさか郊外学習で行った国会議事堂以降に、もう一度赤いカーペットを踏むことになろうとは。しかも、かなりのふかふか感。  周りがやたらに明るく感じるのは、暗い岩屋にいたせいもあるだろうが、それを抜いても無駄に輝くシャンデリアが原因だろう、に迷わず1票。 「廊下長っ!」  いきなり景色が、がらっと変わったのも驚きだが、長い長い廊下もすんごい。先が見えない。  あたしがきょろきょろしている間、キティは無言でつっ立っていた。 「この光景を見て驚かないなんて、金持ち?」 「別に」  だよな。こんな、あからさまに不審者なやつが金持ちで、あたしと出会う確率は、天文学的数字になりそうだ。  そうだ……こいつ、不審者じゃん。有り得ない状況になんのリアクションもなく、対処。さらには、キティだのアリスだの言いだす始末。なにか、企んでいる?誘拐、犯罪!?なんにしたって、危ない香りがする。  静かになったあたしを不審に思ったのか、キティがこっちを向いた。不審なのはあたしではなく、相手なんだけどね。 「進まないのか?」  あんたが怖くて進めないんです。とは、言いだせず。 「早く進め」 「はあああえい!」  口下手でシャイっ子のあたしは、キティの手が肩に触れた瞬間に、やつの左足のスネを蹴り飛ばしていた。言葉で伝えるよりも真っ直ぐに伝わる、迷いのない蹴り、1発。  不審者がいたら、逃げるのではなく、不審者以上の不審者或いは強い子になれば解決! 「聞く耳もたねえ!」  キティがなにか言おうとしたが、遮った。さっきまでの恐怖はどこにもない。優越感、来たよ、これ。  大きな声を出すと、ストレスがすぅっと抜けるね。中間テストのストレス、弁当がなくなったストレス、キティがストレス、やんわりと発散していける。 「悪は滅びろぉぉぉ!!」  見た感じ、あたしのが悪だが。 「誰が悪だと」 「お前だ、不審者!」  人って、勢いでなんでもできるよね。キティを勢いよく突き飛ばす。さすがに倒れはしないが、よろけた所で逃走を試みる。が、腕を捕まれた。 「引き止める理由を言え、ないなら離せ!」 「進むのは結構なことだが、態度を改めろ」 「こんな態度になるだけのことをしたくせに、不審者!」 「悪でも、不審者でもない。キティだ」  聞いてねえし、さっき聞いた。 「不審者、ついてきたら殴ってやる」  脅しではない、本気だ。事実を言ったまでだ。しかし、キティは後ろをついて歩く。あたしが女だから、甘く見ているのか、本気には聞こえなかったのか、前者、後者……両方という考えも有り得る。 「ついてきたら」 「俺も出口に向かってるの。あんたと同じ道を行かないと帰れない。付きまとわれているように感じるなら、俺の後ろを歩けよ」  ひょいと抜かされて、キティの背中が前に出た。キティはさっさと行ってしまうので、あたしはそれに逆らって、自然と遅い足取りになる。不審者の傍を歩く趣味はない。 「おい、アリス」 「聖歌」  思い切り名前を間違えられた。名乗ったのに、また名乗る。はい、二度手間。 「迷子になられたら困る。しばらくは離れるな」 「一本道なのに、どうやって迷うんだよ」 「前」 「前。げえ」  前方注意だ。よく見ると、遠くで廊下が2つに分かれている。 走りながら、考え込んでしまう。右、それとも、左か。手っ取り早いのはキティに聞くこと。あたしが変な意地を張って、当てずっぽうに進むより、場慣れしていそうなキティに頼ればいい。  こいつが不審者ではなかったら成立した話だ。こいつを信じて進んだ先で、誘拐なんかされたら洒落にならない。ウサギとグルの可能性も否めない。  とかなんとか考えているうちに分かれ道まで来てしまった。さて、どうする。なにも考えていなかったあたしは、仕方なくキティに聞いた。 「ねえ」 「話しかけんな」  不機嫌な声でキティが言った。あたしによる散々な言われようが仇になったんですね。全くもって役に立たないやつ!! 「ああ、もう!」  そのままの勢いで真直ぐ突っ込む。やけになって分かれた道の間の壁に、自らぶつかりに行った。いや、通り抜けられる壁かもしれないし、いつだって道は自分で切り開くものだし。 「どりゃー!!」  タックルしました。 「あ、こら!」  ――ガコン、なにかが外れたような音。ガコン?なんでガコン?壁にぶつかったときの音は、ドカッとかドスンだと思う。  答えはすぐに出た。体が斜めになっていく。垂直落下のジェットコースターに乗ったときの、重力のかかり方みたいだ。なにかの仕掛けで、壁が外れてあたしは落っこちていく。  本日2回目。1日に何度も落ちる機会がジェットコースター以外であるとはね、うかつだったわ。
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