第二章

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 声が聞こえる。 これまた本日3回目じゃないか、起きてーって。2度あることは3度あるって言うけど。そろそろ夢落ちで、優子が呼んでいる、で終わりでいいのだが。背中が痛い。夢落ちは無理か。  体を起こして辺りを見渡す。見上げると、豆粒ほどの小さい穴が、かなり上の方にある。あそこから、落ちて、何故死んでいない。逆に怖い。  天井、丸い。穴よりさらに高く、古代ギリシャのナントカ式に似たような柱が数本建っている。世界史の知ったかぶりだ、芸術は分からない。壁は石なのかな、この空間全体が冷たくて寒い。地下何階なんだろう。  岩屋から落ちて、さらに廊下からも落ちた。合計すると、相当、落ちたな。きっと、高校受験で落ちなかった分を、今になって落ちたんだ。なんてね。  視界の中で、なにかが動いた。どちら様かが、あたしに背を向けて立っている。向いた先には大きな扉。でけぇ、綺麗。 「あの」  聞こえていないのか、相手は振り向きもない。 「あの、もしもーし?」  聞こえてる、この声の大きさなら絶対に聞こえてる。しかも、よく響いてる。なのに……。 「聞こえてますよね!」 「え?」  今まで本当に聞こえてなかったのかは疑問だが、そいつは一瞬固まった後に、振り返った。  白いローブで顔が見えない。おかしな格好だ。まるで、子供がふざけてシーツをかぶっているみたいだ。 「どちら様?なんでこんな所に?」  間。 「出口を知りませんか?」 」  間、間。無言常習犯は返事1つせずに立っている。  さっきの廊下ですら容認ギリギリなのに、変な地下で、見ず知らずの白い格好の男と、何故かあたし。ここはまだ、鎌倉と呼べるのか。 「出口」  ついに無言常習犯が話した。ある一点を指差す。が、ただの壁である。全ては壁である。 「壁を登る技術はないというかですね」 「隠し階段」  すぐに階段の存在を伝えてくれたが、大事なことは前もって言って欲しかった。そして、何故に階段を隠す? 「どうも」  あたしはそそくさと立ち去ろうとする。 「待って」  白い人が止めに入った。 「ダイナ」  唐突に言われて一瞬意味が分からなかったが、自分の名前らしい。変な名前。 「会ったこと、誰にも言わないで」 「分かった」  深く考えずに了承する。地下の地下で白いダイナという人に隠し階段を教えてもらいましたと言っても、誰も信じてくれないだろうから、もともと話す気なんてない。 「名前」  聞き返されてしまった。今度はあたしが名乗る番か。キティに、ダイナ、それにアリス。あたしも、先の2人に習って、アリスと名乗ってみようかなー、と思ってすぐに止めた。そんなことしたって、つまらなすぎてネタにすらならない。   「周防聖歌」  これが本名。見ず知らずの相手だが、名乗るだけ、関係はそれまでだ。後は階段を上ってさよなら。 「サトカか」 「覚えなくていいですけどね」 「覚えておく」 「いいって」 「じゃあ、覚えない」 「うん」  二度と会わないだろう。すぐに忘れるさ。むしろ、あたしがこの状況を忘れたい。重ね重ね起きている摩訶不思議体験、悪い夢。そうやって片付けられたらなあ。 「聖歌は」  まだ話があるらしいダイナは、続けてとんでもないことを言った。 「アリス?」 「聖歌」  アリスシンドロォオォォム!!もし忘れられるなら、何から忘れたいか。キティと、キティに名前を間違えられたことだ!アリスはいない! 「よし!道を教えてくれてありがとうでした」  うだうだしてても終わらない。道草食ってる時間はないんだ(因みにここに草は生えてない) 「いえ」  ダイナは短く答えて、大きな扉と向き合った。 「この扉は、岩屋と繋がってないの?」 「開けたら、地獄に連れて行かれるよ」  ダイナは冗談を言った。
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