第二章

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 ダイナから離れて、探すと、隠し階段はすぐに見付かった。落ちた分だけ、ひたすら螺旋階段を歩いている。長い。筋肉痛覚悟の長さだ。  終わりがみえない。  もしかして、この先エンドレスで階段?下を見ても、階段。上を見ても、階段。足元ももちろん、階段。この状況はもはや、怪談。いいギャクだ。中々面白い。  うふ、現実逃避は止めよう!悲しくなってきちゃった。 「どこなんだよ、馬鹿キティは」  わざと声に出して、返事を期待してしまう。立ち止まって耳を澄ます。現状、変わりなし。期待はずれ。バナナの皮踏んだのに転けなかったときの気分だ。  穴に落ちた元凶は、ウサギだ。それから更に、落ちて、不快感が増し、階段を上り、この間の漢字小テストが2点だったのはキティのせいだ。そう思うとキティに軽い殺意が芽生えはじめた。  始めは、軽い気持ちで壁を蹴った。それからもう一発、今度はがつんと蹴り飛ばした。するとどうでしょう、壁にへこみができたじゃありませんか。  ……コンクリート製ではない?  壁が壊れるという常識さよならな場面にテンションが上がり、壊していいのか心の片隅で迷いながらも、がりがり削る。少し開いた穴から、壁で隔てられた隣に、もう1つの空間があることが分かった。なにこれ、わくわく。  調子に乗って、あたしが通れるほどの穴を開けてしまった。後悔はしている、やや汗をかいて一仕事終えた達成感のがデカい。  部屋だ。ドアが2つある。それからテーブルや椅子。綺麗に並べてあり、生活感はない。  穴から中に入ったとき、片側のドアが開いた。 「お、アリス。探す手間が省けたか」 「その名で呼ぶな!!」  またキティと出くわしたで、テレビの見よう見まねでドロップキックをかましてやりました。  綺麗に入って嬉しいな、と感銘に浸りたかったが、キティと一緒に床になだれ込んだだけだった。初めてで、ドキドキのキックだった。  ……ドキドキック。 「なんで?」  あたしの下敷きになって出たキティの感想。今まで散々、変だったのに、普通すぎる感想がぽろりと出ておかしかった。 「テンションが上がってしでかした事だ。満足感で一杯だから、心配しなくていいよ」 「どけ、重い、どけ、馬鹿、どけ」 「疑問符挙げといて文句かよ」  とはいえ、いつまでもキティの上に乗っているわけにもいかないので、のっそりと立ち上がった。上半身を起こしたキティに睨まれた。 「変なやつ」  うん、知ってる。自分は面白おかしい人間だという自覚症状はある。キティに言われるまでもない。  キティも立ち上がって服をはらった。あたし、ほこりをはらわれるほど汚くないが。 「キティさんも、変なやつ」 「そう」 「うん。それで、そっちのドアから出られるの?」  キティが入ってきた方と反対側のドア。随分、階段をのぼったことだし、そろそろ地上だろう。 「そうだな。だが、その前にすることがあるし、鍵がない」  キティを廊下に突飛ばして、ドアを閉めた。 「おい、開けろ!」  内鍵を掛けたからキティは入れないでいる。ドアを叩いてくるが無視。こちらのドアは内鍵なのに、どうして出口の方は鍵が必要なんだよ……。  ドアがたてる音が激しくなった。突き破ろうとしているな? 「止めろ!ドアが壊れる!!」  お願いしてみる。 「開けろ!」  ごもっともだが、知らない。本当にドアが壊れても困るので、積み重ねた椅子をしこたま寄せておいた。これで安心だね! 「鍵を持ってきたら開けてやる」  理解したのか、ドアから音がしなくなった。ふっ、物分かりのいいやつは嫌いじゃないぜ。  待っている間、暇なので、試しにあたしも鍵のかかったドアを突き破ろうとしてみた。期待はしていなかったとはいえ、開かないとへこむ。  テーブルにはないのかと、見てみるものの、あるのはパーティ用クラッカーやティーカップ、ビスケットウォーマー等々。  ビスケットウォーマーを見て、昼食がまだだったことを思い出した。焼きたてのビスケットの匂いで、中を覗きたくなってしまう。  覗くだけならタダだし、いいか。  食べる気満々でウォーマーを開くと、中で赤色のなにかがうごめいていた。閉めた。いい、い、芋虫? 「残念だったな。ドアからじゃなくても侵入……」 「キティさんっ!」  あたしと同じく、壁から戻ってきたキティに必死になって芋虫の存在を伝える。 「キティ、あの、芋虫が。キティ!芋虫!!」 「俺は芋虫じゃねえ」  どうして伝わらない、この思い! 「あんた、大きな扉の前を通ったよな?誰かと会わなかったか?」 「会ってねえよ、芋虫!」 「だから、芋虫じゃねえ!!」  ついにキティさんを怒らせてしまった。別にいいや。
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