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ダイナから離れて、探すと、隠し階段はすぐに見付かった。落ちた分だけ、ひたすら螺旋階段を歩いている。長い。筋肉痛覚悟の長さだ。
終わりがみえない。
もしかして、この先エンドレスで階段?下を見ても、階段。上を見ても、階段。足元ももちろん、階段。この状況はもはや、怪談。いいギャクだ。中々面白い。
うふ、現実逃避は止めよう!悲しくなってきちゃった。
「どこなんだよ、馬鹿キティは」
わざと声に出して、返事を期待してしまう。立ち止まって耳を澄ます。現状、変わりなし。期待はずれ。バナナの皮踏んだのに転けなかったときの気分だ。
穴に落ちた元凶は、ウサギだ。それから更に、落ちて、不快感が増し、階段を上り、この間の漢字小テストが2点だったのはキティのせいだ。そう思うとキティに軽い殺意が芽生えはじめた。
始めは、軽い気持ちで壁を蹴った。それからもう一発、今度はがつんと蹴り飛ばした。するとどうでしょう、壁にへこみができたじゃありませんか。
……コンクリート製ではない?
壁が壊れるという常識さよならな場面にテンションが上がり、壊していいのか心の片隅で迷いながらも、がりがり削る。少し開いた穴から、壁で隔てられた隣に、もう1つの空間があることが分かった。なにこれ、わくわく。
調子に乗って、あたしが通れるほどの穴を開けてしまった。後悔はしている、やや汗をかいて一仕事終えた達成感のがデカい。
部屋だ。ドアが2つある。それからテーブルや椅子。綺麗に並べてあり、生活感はない。
穴から中に入ったとき、片側のドアが開いた。
「お、アリス。探す手間が省けたか」
「その名で呼ぶな!!」
またキティと出くわしたで、テレビの見よう見まねでドロップキックをかましてやりました。
綺麗に入って嬉しいな、と感銘に浸りたかったが、キティと一緒に床になだれ込んだだけだった。初めてで、ドキドキのキックだった。
……ドキドキック。
「なんで?」
あたしの下敷きになって出たキティの感想。今まで散々、変だったのに、普通すぎる感想がぽろりと出ておかしかった。
「テンションが上がってしでかした事だ。満足感で一杯だから、心配しなくていいよ」
「どけ、重い、どけ、馬鹿、どけ」
「疑問符挙げといて文句かよ」
とはいえ、いつまでもキティの上に乗っているわけにもいかないので、のっそりと立ち上がった。上半身を起こしたキティに睨まれた。
「変なやつ」
うん、知ってる。自分は面白おかしい人間だという自覚症状はある。キティに言われるまでもない。
キティも立ち上がって服をはらった。あたし、ほこりをはらわれるほど汚くないが。
「キティさんも、変なやつ」
「そう」
「うん。それで、そっちのドアから出られるの?」
キティが入ってきた方と反対側のドア。随分、階段をのぼったことだし、そろそろ地上だろう。
「そうだな。だが、その前にすることがあるし、鍵がない」
キティを廊下に突飛ばして、ドアを閉めた。
「おい、開けろ!」
内鍵を掛けたからキティは入れないでいる。ドアを叩いてくるが無視。こちらのドアは内鍵なのに、どうして出口の方は鍵が必要なんだよ……。
ドアがたてる音が激しくなった。突き破ろうとしているな?
「止めろ!ドアが壊れる!!」
お願いしてみる。
「開けろ!」
ごもっともだが、知らない。本当にドアが壊れても困るので、積み重ねた椅子をしこたま寄せておいた。これで安心だね!
「鍵を持ってきたら開けてやる」
理解したのか、ドアから音がしなくなった。ふっ、物分かりのいいやつは嫌いじゃないぜ。
待っている間、暇なので、試しにあたしも鍵のかかったドアを突き破ろうとしてみた。期待はしていなかったとはいえ、開かないとへこむ。
テーブルにはないのかと、見てみるものの、あるのはパーティ用クラッカーやティーカップ、ビスケットウォーマー等々。
ビスケットウォーマーを見て、昼食がまだだったことを思い出した。焼きたてのビスケットの匂いで、中を覗きたくなってしまう。
覗くだけならタダだし、いいか。
食べる気満々でウォーマーを開くと、中で赤色のなにかがうごめいていた。閉めた。いい、い、芋虫?
「残念だったな。ドアからじゃなくても侵入……」
「キティさんっ!」
あたしと同じく、壁から戻ってきたキティに必死になって芋虫の存在を伝える。
「キティ、あの、芋虫が。キティ!芋虫!!」
「俺は芋虫じゃねえ」
どうして伝わらない、この思い!
「あんた、大きな扉の前を通ったよな?誰かと会わなかったか?」
「会ってねえよ、芋虫!」
「だから、芋虫じゃねえ!!」
ついにキティさんを怒らせてしまった。別にいいや。
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