第二章

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 ドアをいじってみるが、開かない。押しても引いても反応ナシ。まさか、下から引き上げるのか?  チャレンジ。  はい、無理でした。  鍵は持っていない。しょんぼりだ。悲しくなっても相談できる相手すらいない。がっかりで、視線が下に下がる。  そのおかげで、あたしは新たにドアを発見した。しかし、小さい。ドールハウスよりやや大きいくらいだ。隣にある、普通サイズドアと比べると、おもちゃみたいだ。小さいくせに、かなり精巧にできている。親指姫が出てきそう。  さあ、開くか。しゃがんでドアに触る。小さすぎて、ドアノブが掴めない。そう、そのドアは小さな反逆者だったのです。  念の為また辺りを見渡してみるがキティはいない。お家帰りたぁい! 「キティめ。見つけたらラリアット!」  変な決意をした後、他を探すことに。内心、やや焦りだ。あたしがベンチから離れて確実に10分以上は経過している。優子が腹痛でトイレにこもっていたとしても、帰ってきているはずだ。そうなると、あたしがいなくて行く行くは大問題になるのです、たはー。  こんなところでキティとかくれんぼしているくらいなら、お勉強をしたい。そして、郊外学習前の中間テストをやり直したい。  立ち上がって、テーブルの上を見る。興味本位でビスケットウォーマーを開けて、閉める。動かなければクレヨンみたいで可愛いのに。  キティが消えたのは明らかにコレのせい、分かってる。しかし、あたしだけじゃ現状良くも悪くもならない。時間だけが過ぎてしまう。  困り果てた。お腹が空いた。愚痴ばかりが出てくる。 「キティー」 「アリス」  思わず呼んだ名前で、応答があった。声は聞こえるけれど姿が見えない。 「ここだ」 「どこだ」  右見て、左見て、後ろを見ても人影なし。声だけが聞こえる。透明人間を相手にしているみたいだ。 「左、そう、そのまま」  左に顔を向けて、固定するように言われた。キティの声だ。固定した視界の中でキティを探すと、 「キティさん!?」 すごく小さいキティが見つかった。嘘だ、なんでこいつ小さくなってるんだ! 「馬鹿、近づくな。あんたスカートだろ」 「あ、ああ」  変に気を使われて、こっちが恥ずかしい。 「そんなに小さいんじゃ、ラリアットは無理か」 「は?」 「なんで小さいんだよ!」  小さくなっても可愛くない。   「あんたのせいだ。クッキーを食べたから小さくなった」 「クッキーで?冗談は止せやい」 「冗談じゃないから、俺はこんなに小さくなってるんだぞ」 「あっそ、ごめんね。それで何味だった?」 「……チェリー・タルトとカスタードとパイナップルと、ロースト・ターキーとタフィーと焼きたてのバター・トーストをいっしょくたにしたような味」  長すぎて聞き取れない。日本人だから、タフィーが分からない。パイナップルとバタートーストとか、食べ合わせ悪そう。 「小さくなる成分を知っていた上で、食べさせようとしたのか」 「そうだ」  捕まえてきつく手で握れば潰れてしまいそうな大きさのキティ。状況を理解していないのか、口のきき方を気を付けない。 「その結果がこれだ、ざまあみろだぜ。さ、早く出口に案内しろ。でないと、踏み潰すぞ」 「そうか。で、小さくなってもらおうと思ったのには、それなりの理由がある」  勝手に話が進む。冗談だと思われている。 「回りくどい説明はいいから、本気だからな、本気で潰すぞ」 「はいはい、あそこにドアがあるだろ?あれを通ってもらいたかったんだよ」  キティは2つあるドアのうち、小さな方を言っているのだ。そうね、小さくなれば通れるわねって、悪夢!どこからが夢だ?ウサギを追い掛け始めてから、すっかりあたしの世界観がぶち壊しだ。  服着たウサギ、変な地下、小さくなるクッキーに、目の前の馬鹿。普通の鎌倉観光じゃあ、見れないぞ。   「大きいドアじゃだめなの?」 「鍵がかかっているからな。俺が反対側に行ってドアを開けるか、あんたもクッキーを食べるかだ。中々、美味いよ」 「小さくなるのは嫌」  危険な物は食べない。  知らない土地で食べたものは体調を壊す元になる。ましてや、体が小さくなるなんて、問題外だ。 「すぐ開けるから、勝手に動くなよ」  彼がドアノブまで届くのか疑問だが、頑張って開けてくれるらしい。健気なことだ、さっさと開けて欲しい。  やっと出られる。早く日の光がみたい。  キティがドアの奥に消えていく。あたしが中を見ようとすると、向こう側からさっとドアを閉められた。行儀がいいことで。  大きいドアに耳をそばだてて、あっち側の様子を探る。音がする。打ち付けるような音だ。なんだか、聞いたことある。 「まだー?」  軽くノック、返事なし。  コンコン。  コンコン。  コンコンコンコンコン。  ココココココココココ――ゴンッ!  連続でノック、いや、ドアを殴っていたらあちら側からも殴る音がした。いい加減にしろコールだろう。気に食わない彼をイラつかせるためにやっているから、大成功だ。  それからしばらくしてノックが返ってきた。で、このドアは押しドア。間違えないぞ。
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