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視界が真っ黒になり、気がつくと波打つ海が視界一杯に広がっていた。
ここは砂浜、隣にはラジ・エンバーがいて、潮風にさらされる長い耳を撫でていた。
「潮臭い。懐かしいにおいだ。鎌倉へは初めて来たのに、とても懐かしい」
「いい風だね」
「本当にそう思ってる?」
「ここはとても静かだ」
あたしもラジも黙ると、確かにそうだなと思った。
ポケットに手を突っ込んで、海の遠くを見つめる。
指先に、重みのあるものが当たる。
取り出すと、嘘みたいな大きさの紫の石が出てきた。
そういえばこんなものも、あったな。
腕を振り上げて、広大な海に向かって石を投げる。
あたしの宝石をさらう潮騒が聞こえる。
遠くへ、遠くへ。
ここではない何処かへ向かっている。
いつか誰かに届くだろうか。
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