第三章

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 波の音だった。強く打ち付ける波の音。江ノ島へ続く橋でも聞いた。  辺りは浜と海が延々と続いていて、それ以外には何も見当たらない。なにも……。 「どこだよぉぉ!」 「海」 「ああ、そうだね。ここはどこだよぉお!!」 「だから、海」  鎌倉の、どこだよ。同じ海だが、建物がない、人もいない。ぐるりと1回転したが、なにも。これほどなにもない海が、鎌倉内にあるのだろうか。いい観光スポットになりそうなのに、あたしとキティだけ。  他にあるのはドア2つ。普通は壁やに物にくっついているはずなのに、自立している。このドアはどうなっているんだ?  さっきまでいた場所から繋がるなんて、地下にいたはずなのに。  小さなドアには、小さなキティが寄り掛かっている。 「その大きさ、いつ戻るの?」 「効果が切れる食べ物がないと、どうにも」 「は、何だって?」  なにその危ない食べ物!初対面のあたしになにやっちゃってくれようとしてるんだ。 「じゃあ、食べ物がなければずっとそのまま?」 「ああ」  もっと、焦れよ!!常識の範囲外だ。顔色変えずに受け答えするとは、鈍いんだか図太いんだか。 「このまま先に進めば元に戻る」 「なに、ついてくる気?」 「俺がいなくて、道分かるのかよ」 「……ああもう」  なんとも頼りないやつだが、帰り道は分からない。キティは知っているような言い草だし、頼るしかないだろう。 「どうなってんだよ」  当て付けにドアを蹴る。  ドアが開く。  ウサギが見えた。
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