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声が聞こえる。起きろと催促する男の声。「起きろ、アリス」と、機嫌が悪そうな声が言う。
声が響く。「起きて」と、可愛らしく頼む声。声変わりしていない男の子の声があたしに話し掛ける。
声が投げ掛ける。「起きてください」と頼む声色は、体を揺られるよりもよく伝わる。
意識はぼんやりとしながらも、揺れる体に感覚が戻る。アリス、アリスと呼ぶ声はまだ聞こえている。
「起きて、聖歌」
「アリスじゃあないから」
「だから、聖歌。起きて」
目を開けて、周りをよく見る。そこにいたのは綾瀬優子(あやせゆうこ)。優子に呼ばれたあたしは周防聖歌(すおうさとか)だ。決してアリスではナッシング。
「アリスなんて言ってないよ。どんな夢を見てたの?」
「プリンが……」
「アリス出てないじゃん」
優子に寝呆けていると思われた。やや不満。
夢ってのは寝て起きて直ぐは覚えてるんだけど、時間が経ってしまうと覚えが抜群に悪い。プリンがでてきたような気が。プリンだろうが、アリスだろうが、夢は夢だし気にするものでもないだろう。
「もうすぐ江ノ島だよ」
「うは、そんなに寝てた?」
「うん、爆睡。景色が綺麗なのに」
小突かれて、江ノ電の窓から外を覗く。遠くに海が見える。
「海ばっかり」
「綺麗でしょう?」
優子は楽しそうに眺めている。桜貝とか神社の紅葉とか、鎌倉に来てからテンション高く喜んでいる。
それに比べてあたしが好きなのは、昨日の茶房で食べたクリーム白玉あんみつと抹茶のセット1200円。日本人として、紅葉には溜め息をつくものがあったが。
あたしと優子は高1の二学期に校外学習中。1泊2日で鎌倉に来てる。2日目の今日は、江ノ島に行くことになっていて、班の皆と江ノ電に乗ったのだった。
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