第三章

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  「うわ、高そう」  作りはシンプルだし、特別細工がしてあるわけでもないが、懐中時計の金色は傷なく輝いている。 換金したらいくらになるかな。 「なんて書いてある?」  時計の裏側に文字が彫ってあるけど、英語だから自信がない。 「ラジ・エンバー。聞いたことのない名前だ」 「これ、どうする?」  あたしは時計に繋がれた鎖を振り回した。 「危ない!俺に当たったら怪我じゃ済まない」  キティのサイズじゃ、巨大鉄球が飛んでくるようなものか。気に障るから、これ以上愚痴続く前に懐中時計を静止させた。 「浜に置いておいたら駄目になっちゃいそうだし、警察に届けようか」 「好きにしろ」  大切なものだったらかわいそうだもんな。高そうだから、簡単に盗まれそうだ。あたしは怖くて無理。  制服のポケットに突っ込むと、重さを感じた。 「なくすなよ」 「じゃあ、キティが持てよ」 「俺、関係ないし」  うわ、責任逃れ。 「早く追いかけろ。見失ってるぞ」  砂浜、海岸線。因幡さんは見えない。急いで追う前に、しゃがみ、キティの傍に手を置いた。 「なんだよ」 「乗っていいよ」  あたしがなにかする度に文句を言われていたが、今回は無愛想に手のひらに乗るだけで済んだ。お礼はないが、まあいいだろう。 「よし、行くか」  海と浜に終わりが見えないのは触れないでおく。
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