508人が本棚に入れています
本棚に追加
/1021ページ
「うわ、高そう」
作りはシンプルだし、特別細工がしてあるわけでもないが、懐中時計の金色は傷なく輝いている。
換金したらいくらになるかな。
「なんて書いてある?」
時計の裏側に文字が彫ってあるけど、英語だから自信がない。
「ラジ・エンバー。聞いたことのない名前だ」
「これ、どうする?」
あたしは時計に繋がれた鎖を振り回した。
「危ない!俺に当たったら怪我じゃ済まない」
キティのサイズじゃ、巨大鉄球が飛んでくるようなものか。気に障るから、これ以上愚痴続く前に懐中時計を静止させた。
「浜に置いておいたら駄目になっちゃいそうだし、警察に届けようか」
「好きにしろ」
大切なものだったらかわいそうだもんな。高そうだから、簡単に盗まれそうだ。あたしは怖くて無理。
制服のポケットに突っ込むと、重さを感じた。
「なくすなよ」
「じゃあ、キティが持てよ」
「俺、関係ないし」
うわ、責任逃れ。
「早く追いかけろ。見失ってるぞ」
砂浜、海岸線。因幡さんは見えない。急いで追う前に、しゃがみ、キティの傍に手を置いた。
「なんだよ」
「乗っていいよ」
あたしがなにかする度に文句を言われていたが、今回は無愛想に手のひらに乗るだけで済んだ。お礼はないが、まあいいだろう。
「よし、行くか」
海と浜に終わりが見えないのは触れないでおく。
最初のコメントを投稿しよう!