第一章

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  「そうか。まあ、海と富士山は綺麗だったよ。じゃあ、また」  四ッ谷くんは友達に促されて、次の目的地に向かってしまった。四ッ谷くんがいないなら、あたしだって香水瓶美術館行きたかったわ。仕方がないから、さっさと飯食って、穴みるか。 「あのベンチに座って食べようか」  あたしと優子は近くのベンチに腰を下ろす。岩屋は目の前なんだけどね。腹ごしらえしないと。  岩屋、富士山に続いているって伝説があるらしい。ここは鎌倉ですよ?どれだけ歩けば、静岡まで行けるんだよ。悪質なホラ話だ。 「ちょっとトイレ」  優子はそう言うと、トイレがありそうな場所を探しに行った。あたしは弁当をベンチに置いてすぐ後ろに広がる海を眺める。すっごく綺麗で思わず立ち上がって柵にくっつくようにして海を眺めてしまう。  ところで、この辺りは鳥が食べ物を荒らすらしい。注意書きの看板をいくつか見た。ずっと弁当から視線を逸らしてたから心配になり、急いで振り替える。  弁当は無事だった。無事という意味は、食べられていない状態ってだけで、あたしの弁当はある意味、危機的状況だった。 「どちら様でしょーか?」  そこにいたのは、あたしの弁当を手に持ったウサギ。普通のウサギではない。二足で直立しているし。人型に近いが、着ぐるみではなく、本当に本当のウサギに見える。ふわふわの白い毛は触ったらぜったいに気持ち良さそう。  それであたしは、なにを呑気にウサギ観察してるんだ、弁当のピンチだぞ。 「それ、あたしのなんですけど」  言われたウサギは、はたと弁当を見つめる。そしていきなり全力ダッシュを始め、な、何だって!? 「ちょっと待ったああ!」  え、何あれ。ドッキリ?誰が仕組んだんだ。不審、不審者だ!お巡りさぁぁあぁん!  誰が捕まえてぇー、と怒鳴りながら後を追い掛ける。誰も来ない。
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