第一章

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 第2岩屋に向かうウサギ。全力疾走はストップせざるをえない。岩屋の中は薄暗く、場所によってはやや天井が低い。よく考えたらわかることだった、うかつでした。さて、ウサギさんはどこだ。1人で岩屋を歩く。そんなに広くないはずだ。  ここで冷静になり、気がついたことがある。人に会わなかったことだ。ここは観光地、少なくとも人一人ぐらいはいてもいいはず。おかしい。  この薄暗い穴の中にいるのはあたしと、今は見当たらないウサギ。本当に、1人と1匹だけなのだろうか。  もしかしたら、ウサギなんていないのかもしれない。今が夢だ、とは言いすぎだが。弁当はお土産屋さんでも売っているし、諦めるべきだ。きっと優子がもう、戻っている。  何の音もしない。 ウサギの足音も、布の擦れる音も、息遣いも、鼓動も。あんなアブノーマルなものは、関わらないのが吉か。早々に立ち去ろう。  ――でも、見つけてしまった。闇の中にある白い耳、ウサギ。あたしを誘っているかのように、立ち止まってじっとこちらを見つめている。見られている。  あたしにどうしろと言うんだ。追ったらお弁当を返してくれるってか?あのウサギは、腹が空いているのかしら。もしも、あたしを誘き寄せるためにやったことなら、優子の所に。  ウサギは動かない。弁当は諦めよう。背を向ける。背中を見せた途端に、襲われたらたまったもんじゃないから、走って外を目指す。
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