イデア

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彼は細面で、色素が薄く、まるで寿命を宣告された聖像の如く儚げであった。 だからこそ僕は教科書で見たプラトンと彼を結び付けられずに中々困惑したのだ。 教科書の肖像は岩そのものであったからだ。 目の前でプラトンと名乗る少年は、この前図書館で偶然見つけた【トーマの心臓】という漫画の中の、優等な先輩(♂)を愛し、その愛ゆえに自殺したトーマ少年を彷彿と思わせ、それを彼に伝えると、彼は優しげな目を閉じて薄く微笑んだ。 (そして、僕の心音はそこまで透明でないし、そこまで人の心を打つ事はできないよ、と言った。) 彼の口が次の言葉を紡ぐまで、それはかなりの時間を要した。 僕はそれまで特にする事もなかったので、プラトンに向き合ったまま黙っていた。 「君は何故プラトンが有名になったかを知っているかい?」 それは目の前のプラトンの事か、将又、古代ギリシャの哲学者であるあのプラトンの事か、僕は少し考えた。 そして目の前のプラトンが口にしたプラトンが、哲学者であるプラトンだと思い至って、さて知らないな、と言おうとした時、プラトンは僕の言葉を遮るようにして、言葉を紡ぐ行為を再開した。 「それはね、プラトンの理論がまったく理想論だったからさ」 返す言葉が見つからずまたもや黙っていると、彼の目は僕の目から離れた。 それから独り言のように、理想論はキリスト教徒に受け入れられ易かったんだ、と言ったので、僕はなるほどね、と返した。
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