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それからまた長い時間がたって、プラトンは口を開いた。
「僕はね、本当はそこまで、プラトンの事が好きな訳じゃないんだ。」
それにイデアなんて全然これっぽちも信じていないし。
では何故、彼はプラトンの話題ばかりを選び(脈絡らしい脈絡はないに等しいけれど)
何故、プラトンという名を名乗ったりするのだろうか。
そんな野暮な疑問を抱いた僕は一般人という許容の中にどっぷり存在していると思う。
プラトンは続ける。
「それでも何故、僕が今プラトンを名乗っているのかと言えば至極簡単で、要するに僕は理想主義者なんだ。」
僕は一般人特有の変わり映えしない頭で、なるほどと答える。ほとんど、なんとかの一つ覚えだ。
僕は僕なりに考えているつもりだが、それは殆ど思考にすらなっていないのかも知れない。
何故なら僕は辞書がないと理想主義の意味が分からないのだ。
「いや、理想主義者というのは正解でないのかも知れない。僕は理想の実現なんていうのにあまり興味はないんだ。」
彼の言葉を聞いて、理想主義というのは理想の実現を志す主義である事がようやく推測できた。
なるほど、理想の実現ほど手の施しようのないものはない。
それは最早、精神疲労、障害の元、ストレッサーだ。実現するための犠牲とか、労力とか、期待とか、そんなものは考えるだけで脳みそが液状化して鼻から出てきそうだし、僕は理想実現のために被る迷惑には、ほとほと嫌気がさしていた。
「僕は、そう僕は、理想を現実にするつもりなんてないし、それが為される事は永久に不可能だと自覚しているんだ。けれど、あまりにも現在とか現実とか今立っている地点が好きじゃないから、理想論を語るんだ。語るだけなんだ。語るだけな筈だったんだ。」
プラトンは半ばまくし立てるようにそう言った。
けれどその声に抑揚を殆ど感じ取れなかったため、まるで念仏や使徒信条を告白しているようにも聞こえた。
僕は彼の告白を聞いて、それは逃避だろうと言いたかったが、結果的に彼のアイデンティティーを崩す事になりそうだったのでやめておいた。
プラトンは言った。
「僕の理想はオポチュニズムであると同時にイデアリズムなんだ。」
だから僕がプラトンである事を否定しないでくれ。
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