嫌いだよ。ピアノも。僕も。

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昔はピアノが好きだった。鍵盤を弾く自分の指が、奏でる音が、皆が上手いと褒めてくれることが、評価されてコンクールで脚光を浴びることが。 楽しいことが沢山あった。あの頃は、ピアノだけが全てだった。ピアノさえ弾いていれば全て上手くいった。ピアノだけが自分が自分らしくいられる場所だった。 なのに、今は 「本当に嫌い?嘘じゃなあい?」 会って間もないこの少女に全て曝け出しそうになってしまう。 嫌いなんかじゃない、と本当のことを叫びそうになる。 「…嘘かもね。僕は大人だから」 大人になる前にピアノから僕は逃げた、どうしようもない大人なんだよ僕は。 少女の瞳はきらりと光った。 その美しさが僕に半分でもあれば、僕はピアノから逃げ出さずにすんだかもね
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