君のためなら。

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紗奈は(少女は紗奈と名乗った)それから度々裕紀の前に顔を出した。 裕紀の仕事の邪魔をしながら、ほとんど紗奈が一人で喋っている。会話の内容は取り留めのないものだが、その会話のほぼ全てには「お兄ちゃん」と「ナギ」という二人が登場した。 会話の内容からするにお兄ちゃんは紗奈の兄弟の兄で、ナギは紗奈の姉になるらしい。 二人とも紗奈の世話焼きで、たいそう紗奈を可愛がっているらしいということは話から容易に想像できた。 物を買い与えたり好みの料理を作ってくれたり遊園地に皆で行ったり、時には叱られたり。 紗奈がいかに愛情を注がれているのかが分かる。 性格が多少ワガママで世間知らずなのはその二人の影響なのだろう。そして紗奈のピアノ好きは、姉のナギの影響なのだということもすぐに分かった。 「ナギはね、すごく優しく唄うんだよ。優しくて、優しすぎて眠たくなるくらい。」 「紗奈、邪魔」 くったりと、肩に寄りかかってくる小さな頭を裕紀は押し返す。しかし、どんなに外そうとしても紗奈はすぐにくっ付いてくる。作業の邪魔だが振り払うほどに邪険には出来なくて、仕方なくそのままにすることにした。紗奈の身体は細くて軽く寄りかかっていても気になるほどの負荷は掛からない。 しかしその軽さが逆に気になった。成長期の少女がどんなものなのは分からないが、誰の目から見てもあまりに細すぎる紗奈の身体。専門ではないから詳しいことは分からないが、この細さは異常なのではないだろうか。最初に言っていたお兄ちゃんに言わないで、は、紗奈が勝手に大学内に侵入したことを言っているのではなくて、本当はもっと別の理由があるのではないか。
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